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マレーシアの輸入許可証撤廃が与える中古車流通への影響

◆2014 年発表のマレーシア国家自動車政策

マレーシアは、古い伝統を残しつつ、その制約の中で最先端の考え方・技術を取り入れながら成長してきた。ブミプトラ政策は、マレー系および先住民を優遇する経済政策である。新しさと伝統の融合を模索してきた政策といえる。マレーシアではその政策の一つとして、ブミプトラの国産⾃自動⾞車車産業育成・保護政策がとられている。マハティール元首相が顧問を務める国産車プロトン社はその代表だ。

一方、2015 年末に予定されているアセアン経済共同体の発足など、マレーシアを取り巻く環境は急激に変化している。このような変化に対応するため、保護から競争力強化へと政策を変化させようとする動きが出てきた。中古車を含む完成車は、AP(Approved Permit:輸入許可証)なしでは輸入が行えず、国内⾃自動車産業が保護されてきた。現在AP の申請はブミプトラだけに限られている。

2014 年のマレーシア新国家⾃自動車政策で、AP を撤廃する方針が改めて発表された。特定メーカー車両の輸入に必要な「フランチャイズAP」を2020 年末、中古車輸入に関係があるメーカーや輸入元を限定しない「オープンAP」を2015 年年末で撤廃するという内容だ。AP の撤廃が、マレーシアの中古車市場にどの程度の影響を及ぼすのか。マレーシアにおける中古車流通の現状を把握して検討する。

◆マレーシアの中古車流通

マレーシアには中古車関連の業界組織がなく、中古車市場規模の統計データがないため正確な数字は分かっていない。マレーシア国産メーカーでのヒアリングによれば、中古車の年間登録台数は新車販売台数(約66 万台)の約80%(=53 万台弱)と見積もられている。登録(名義変更)は、エンドユーザーに届くまでに平均1.5〜~2 回行われており、実際の中古車小売り台数は、およそ27 万〜~35 万台と推測される。

マレーシアでは、中古車は新車ディーラー、中古車販売店、オークションの3 つの流通経路で取引が行われている。

新車ディーラーはまだ販売規模が小さく、積極的な中古車の小売りを行っていない。

新車の乗り換えとして手に入れた中古車は中古車販売店へ卸売りをしている状況だ。

現地のディーラーへのヒアリングでは、「小売り:卸売り=1:9」であった。一方で自動車メーカーとしてトヨタが2000 年に「Top Mark」という認定中古車のブランドを立ち上げ、2012 年にはプロデゥアが2 番目のメーカー認定中古車制度を立ち上げた。まだ数は少数だが、メーカー認定の中古車が市場に流れ始めたようだ。

中古車販売店はマレーシア中古車流通市場のメインプレーヤーであり、5000 カ所ほどあるといわれている。エンドユーザーへの小売りがメインとなるが、ほかの中古車販売店に対しての卸売りも行っている。仕入れの多くは新車ディーラーからだが、一般ユーザーやオークションからの仕入れ、中古車販売店同士での交換もある。中古車販売店の集客では、ネットサイトと自動車雑誌が多く利用されている。一般的にエンドユーザーはネット、雑誌などで興味がある中古車を確認したあと、中古車販売店で現車を確認し購入するというステップを踏んでいる。

オークションはおよそ20〜~30 カ所で、それぞれ毎月300〜~400 台の取引が行われている。多くは銀⾏行行などの金融差し押さえの中古車が流通している。エンドユーザー同士での個人間取引も、ネットサイトやこのようなオークションを通じて行われているようだ。

◆輸入中古車市場のターゲットは高所得層

マレーシアでの輸入中古車の市場規模は、全中古車流通市場の10%以下だ。マレーシア国内へは年式2〜~5 年の中古車輸入が認められている。日本からの車の多くはハイエンド層向けの車だ。一般的にはマレーシアでは生産されていない、もしくは入手しづらい、新車に近い車が多い。現地でのヒアリングによれば、AP(輸⼊入許可証)を取得して輸入中古車を購入するユーザーが、最も高所得層である。入手しづらく高関税がかかる中古車を購入できる財力、ネットワークが必要だからだ。

中間所得層は、日本メーカーの新車、マレーシアメーカーの新車を購入し、これら新車に手が届かない低所得層が、輸入によるものではない国内で流通する中古車を購入している。

◆AP 撤廃による中古車流通市場への影響は限定的

AP の撤廃による中古車流通市場への影響は軽微だろう。理由として、1 つ目には顧客ターゲットが異なっていること、2 つ目には中古車市場に対する輸入中古車市場規模が大きくないという点が挙げられる。しかし、ブミプトラへの影響は慎重に検討する必要がある。元々AP は2010 年末に廃止される予定だったが、2009 年に終了を延長されたという経緯がある。AP の撤廃によってブミプトラにどの程度の影響が出るか分からないからだ。一方で、ブミプトラとして過度に政府に依存する時期は終わったという意見も多い。現在のマレーシア中間所得層の主力は、華人からブミプトラに変わってきているからだ。

マレーシアにとって、自動車産業を支援していくという立場は変わらないだろう。しかし自動車政策とブミプトラ政策のかかわり合いは強く、見直しは簡単ではない。これからの国家自動車政策の舵取りは、マレーシアにとって正念場となる。

※本記事は、レスポンスでのコラム「川崎大輔の流通大陸」の記事の一部を編集、再構築しております。


kawasaki.jpgのサムネイル画像川崎 大輔 (かわさき だいすけ)

香港の会社に就職後、アジアに8年駐在し、日本に帰国。ベンチャー企業の経営企画を経て、中古車企業のガリバーインターナショナルで海外事業部の立ち上げ。アメリカ事業、インド事業、タイ事業の立ち上げと海外事業を担当。2015年半ばよりAsean Plus Consulting LLCにて日系企業のアジア進出サポートを開始。

経営学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア研究センター外部研究員


JTBグループが国内外の独自のパートナーシップの構築により日本企業の海外進出をサポートするLAPITAでは、中古車買取販売のガリバーインターナショナルの海外事業を担当してきた川崎 大輔氏とともにASEAN地域の中古車市場の調査・視察のご支援をいたします。

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