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【マレーシアコラム】ハラル化粧品のビジネスチャンス その5

【マレーシアという国】

私が2009年から2014年まで駐在していたマレーシアを舞台として、ハラル化粧品市場への参入について述べてきた。ここまで書いていまさらだが、このマレーシアという国について、最後にふれてみたい。マレーシアの人口や、民族の割合、経済状況、公用語の一般情報等はネットで調べればわかることだし、会社の設立や関係する法規は、現地の弁護士や会計士を使い最新の情報を入手すべきなので、ここでは述べない。

マレーシアという国に、私が住んでみた感想を述べようと思う。それは、ひと言に集約される。多民族の国家だということだ。これほど、多民族を感じる場所はそうそうない。

まず、言語。人口の多くを占めるマレー系は、マレー語で会話している。同じマレー系でも、上流層は家庭でも英語が第一言語として話されている。一方、中華系はというと、中国語の標準語は当たり前、広東語や福建語、客家語など、各方言も健在である。このように、コミュニティーによって第一言語が決定的に異なる。異なったコミュニティーと話す場合は、英語が好まれ、どちらかが英語が話さない場合、マレー語での会話となる。ある2人が会話していると、どういうコミュニティーで、どういったバックグラウンドがある2人なのか、使われている言語である程度わかってしまう。

また、面白いのは街の広告だ。広告に書いてある言語を見れば、どのコミュニティーをターゲットにしているのかがすぐにわかる。ある意味、マーケティングはやりやすい。マレーシアの不思議は、言語でコミュニティーが別れて、それぞれが同化していないことだ。多民族を感じる。

また、宗教からもコミュニティーが交わっていない多民族を感じる。マレー系は主にイスラム教徒であるのに対し、中華系は仏教徒、インド系はヒンドゥ教徒が多い。マレーシアは、イスラム国家であるから、イスラム法が存在するが、これによって裁かれるのはマレー系のみ。イスラム教徒以外なら、イスラム法では厳禁の、お酒を飲むことも、豚肉を食べることも許している。

冒頭にも述べたが、私などは、イタリアレストランに生ハムがないことから、はじめてマレーシアがイスラム国であったことを思い知ったくらいで、短期滞在の外国人にとって、ハラルを認識することは少ないと思う。ただ、ある程度長期間滞在すると、なるほど、イスラム国だと思うことがある。

例えば、豚肉を買いたいとスーパーに行く。食肉のコーナーには、牛肉や鶏肉はあるが、豚肉はない。豚肉は、スーパーの一角の少し隔離されたような空間、ノンハラルのコーナーにある。豚肉以外にも、ハム、ベーコン、豚を使った餃子などは、全て一般の売り場にはなく、ノンハラルのコーナーにある。そして、そこの店員さんは、イスラム教徒ではない。時々、そのコーナーに店員さんがおらず、一般のレジで会計してくださいということがある。そういう時には、一般レジを担当するムスリムの店員さんに、豚肉を触らせないように、自分で豚肉をつまんで、店員さんが豚肉に触らずにバーコードをスキャンできるようにしてあげ、自分でレジ袋にいれる。

言語も宗教も違い、様々な文化を持ち、あまり交わり合わないコミュニティーが、ひとつの国の中、ひとつの企業の中で、働き、暮らしている「心地よさ」を、日本人にはなかなかわかりづらい。私が駐在していた会社では、昼食時などは、完全に分かれて、同じコミュニティー同士のグループで食事をしていた。また、送別会や歓迎会等、何度か宴会をやったが、マレー系と中華系では、座るテーブルが完全にわかれてしまうので、日本人はさてどこに座ればいいのか、困ってしまう。社内をまとめなくてはと思う日本人駐在員には、頭が痛いところだが、よく陥る間違いは、言葉の通じやすい方の意見を聞きがちということだ。私などは、どのコミュニティーにも属さない、外国人を決め込んだ。昨今マレーシア政府のスローガンが「1(ONE) MALAYSIA」となっていることからも、この多分化にどう取り組むかが、マレーシアの政治において大きな関心なのだろうと思われる。

【結びに】

ハラルを題材として、コラムを書いてきたが、ハラルのビジネスに取り組む前に、何よりも考えていただきたいのは、その国の歴史、文化、癖などを理解し、尊重すべしということである。国の事情を理解することは、そのまま、その国、その市場の真のニーズを理解することである。
海外に市場を広げたいと考える日本企業は多い。まずは、自分のニーズより、相手のニーズ。この当たり前の経済学を基に、海外事業の運営を心掛けて欲しい。

※前回のコラムはこちらから:【マレーシアコラム】ハラル化粧品のビジネスチャンス その4



コンサルタント 安藤仁志

1960年、新潟市に生まれ、うお座。O型。大学卒業後、日本メナード化粧品に入社。主に海外事業に携わる。タイ、中国、マレーシアに駐在した経験は、現地法人の立ち上げから経営、現地法規制へのコンプライアンス業務、海外代理店の開拓・営業、海外マーケティングまで幅広い。退社後は、海外への進出を希望する企業へのコンサル業を営む。

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