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【ロシアコラム】ダーチャ(ロシアの別荘)について(鐵尾 安夫)

ロシアでは例年5月頃から本格的なダーチャの季節を迎える。金曜日の夕方から日曜日の午後まで都会の喧騒を逃れ、郊外の別荘で家族や友人と自然に触れ合いながらのんびりと時を過ごす、これがダーチャでの楽しみ方である。

ダーチャの起源は17世紀まで遡る。当時君臨していたピョートル大帝は戦争の功労者に土地を与え、その功績を讃えた。ロシア語で「与える」という言葉は「ダーチ」、これがダーチャの語源である。
2012年のロシア世論調査会社によれば、ロシア国民の3分の1が夏休みをダーチャで過ごす、と回答しており、ダーチャが余暇の対象として大きなウエイトを占めていることが分かる。

私が訪問したモスクワ郊外のダーチャについて印象を述べてみたい。
最初はソ連時代の世界的バイオリニストだったレオニード・コーガン氏のダーチャである。訪問目的は当時の勤務先だったソニーのテレビ修理依頼への対応で、同僚の技術者とともにダーチャへと向かった。森の中にひっそりと佇む気品に溢れた建物で、室内へ入ると落着きのある調度品などが配置されており、さすが超一流アーティストのダーチャと感服した。業務で訪問したこともあり庭や菜園などを拝見することはできなかったが、手入れの行き届いた庭であろうことは想像に難くない。コーガン氏の細やかな気遣い、奥様の紅茶と焼きたてのクッキーが今もなつかしく思い出される。

2軒目は私のビジネスパートナーであるイーゴリ氏のダーチャである。同氏はダーチャや公園などで使用される小型農機や管理機販売会社の元幹部で、同氏所有ダーチャ地区の役員も務めていた。当方のダーチャ見学依頼を快諾頂き、弊社顧客のメンバーと訪問した。モスクワ市内から車で約2時間の距離だった。ダーチャの広さは約20mx 30mで、庭にはすぐり、木いちご、りんごなどの果樹が育ち、人工の小川や小さな石橋も架けられていた。さらにじゃがいもやにんじんなど野菜栽培のスペースも設けられている。昼食は奥様が腕によりをかけて調理したサラダ、ボルシチ、ご子息が薪で丁寧に焼いたシャシリク(ロシア風バーベキュー)、そして自家製のモルス(ベリー類のジュース)、ビール、ウオッカ、ワインがテーブル狭し、と並んだ。青空の下、ダーチャの庭で新鮮な空気もごちそうに、貴重なダーチャ体験をさせて頂いた。               

RussiaColunm201406.png(写真はイーゴリ氏ご一家と著者)  
2012年6月のロシア政府情報紙によると、ダーチャや菜園の数が4千万を超え、国民の3人に1人が所有者、とのことだ。つまり、殆どの家庭がダーチャを所有している計算になる。極東ロシアのウラジオストックやハバロフスクにもたびたび出張するが、週末のダーチャ通いやそれに伴う交通渋滞はモスクワと同様である。

一方、ダーチャは有望なビジネスマーケットでもある。市内からダーチャへ通ずる各幹線道路沿いには食品スーパーマーケットがあり、週末は「ダーチャ特需」で来店客が激増する。日本製菓子、食材そして日本酒などをアピールする良いチャンスと思う。また、各幹線道路にはホームセンターもあり、ダーチャの補修や装飾用資材などが販売されている。日本製品の需要が見込まれるものとしては、サイディング(外壁)のような建物の外装製品、照明機器などの内装インテリア、そして断熱や防音材などが挙げられる。また、広い菜園用には小型トラクター、耕うん機、草刈機、小型発電機なども可能性があると思われる。

ロシアの伝統的文化であり、今なおロシア国民の生活に深く根付いている「ダーチャ・マーケット」へのアプローチをお勧めしたい。



MrTetsuo.jpgLAPITAアドバイザー

ロシアビジネスコンサルタント
鐵尾 安夫 

日魯漁業にて旧ソ連からの農水産物輸入を行うとともに鮭鱒母船操業通訳官を担当。
ソニーでは旧ソ連向け放送機器システム輸出および同機器デファクト化の推進を行うとともにシェワルナゼ外務大臣(当時)のソニー訪問をアレンジするなど、ソニーと旧ソ連のブリッジ役として活躍。
2007年よりロシアビジネスコンサルタント業務を行うテツオ・トレーディング株式会社を設立し、中堅・中小企業のロシアビジネス支援をはじめ、2008年よりロシアNIS貿易会のビジネスマッチング事業コンサルタント、2009年より外務省主催の「在ロシア日本センター訪日研修事業プログラム」の一環としてロシア経営者幹部を対象としたビジネスセミナー講師を担当。

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