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【ロシア・ウクライナコラム】ウクライナでの「おもてなし」(鐵尾 安夫)

ウクライナ情勢が緊迫の度を増しているが、今回はウクライナで受けた「おもてなし」についてお話したい。

2010年1月中旬にモスクワを皮切りにウクライナ東部のドニエプロペテロフスクと南部のオデッサを訪問した。モスクワからキエフ経由でドニエプロペテロフスクへ向かう途中、雪が舞い始めた。少し嫌な予感が脳裏をかすめたが、空港到着後アポイント先の企業を訪問し商談を行った。

その日の夜は、アポイント先企業からウクライナレストランに招待された。
店内はトマト、ジャガイモ、カボチャ、トウモロコシによる伝統的な装飾が施され、ウエイトレスは可愛い民族衣装に身を包みサービスをしてくれた。前菜、スープ、メインディッシュ、デザートすべてが美味で、特に前菜にロシア料理では見られない何種類もの野菜、スモモやスグリなどの果物類が盛られていたことが印象的だった。また、ロシアを代表するスープのボルシチはウクライナが発祥の地であり、レシピも数十種類以上あるとのことだ。ウクライナ料理と日本料理に関するうんちくを披露し合いながら、あっという間に楽しい時間が過ぎた。しかも、ディナー中は仕事の話が一切なく温かい「おもてなし」を実感した。

翌日はキエフ経由でオデッサへ向かうことになっていたが、昨日から気になっていた雪がその勢いを増し始めた。搭乗案内時刻になっても何のアナウンスもなく、空港待合室の乗客達もざわめき始めた。出発時間を過ぎても状況説明がなく、無礼を承知で航空会社のドアを開けて状況を確認したところ、猛吹雪で空港閉鎖が決定したばかり、とのコメントが返ってきた。慌てて翌日の便にチケットを変更してもらい、オデッサのアポイント先とホテルに電話を入れ、到着が1日遅れることを説明し了解を得た。その後、この不運を嘆きながら今朝チェックアウトしたホテルへ再度チェックインすることとなった。
フロントの女性担当者が「お帰りなさい!」と微笑んでくれたことが唯一の慰めだった。
 
翌早朝に空港閉鎖が解除され、ようやくのことでオデッサへ到着した。ホテルへ到着後、フロントで1日遅れの事情を再度説明したところ、既に事情は伝わっており、「大変でしたね」と温かい言葉をかけてくれた。この一言で昨日からのストレスも多少和らいだ。しかし、ストレス解消のクライマックスはまだ先にあった。

russiaclumn3.jpg部屋に入ると、テーブルにシャンパンとケーキが準備されており、ケーキにはロシア語で「お誕生日おめでとうございます」と記されている。今日が私の誕生日だったことをすっかりと忘れていた。すぐにフロントへ出向き、丁重にお礼を述べた。過去にも何度かロシアをはじめ海外のホテルで誕生日を迎えたことがあるが、このような厚意は初めてである。一昨日のドニエプロペトロフスク空港閉鎖からのストレスが一挙に吹き飛んだことは言うまでもない。これは私にとって極上の「おもてなし」であり、同ホテルの名前は永らく私の記憶に残るだろう。

「和のおもてなし接客研修」というホームページに「おもてなし」と「サービス」の違いが語られていた。要約すると、「おもてなし」は対価を求めない自然発生的な対応で、「サービス」は対価を求める主従関係的対応、とのことだ。私がウクライナで受けた前述の厚意は、まさに「おもてなし」だったと、改めて感謝の意を表したい。

さて、「おもてなし」と言えば本家はやはり日本であろう。また、和食文化には決して欠かせない要素でもある。料亭では仲居さんの細やかな心遣いに触れることができるし、季節に合った生け花が安らぎを与えてくれる。さらに、提供される料理に合う日本酒を店がお客様にアドバイスをすることも、大切な「おもてなし」だと思う。英国では「日本酒のソムリエコンテスト」が開催され好評とのこと。モスクワでも日本酒ソムリエが誕生することを期待したい。

一方、米国では寿司よりもチーズのほうが日本酒に合う、日本酒の香りを楽しむためにワイングラスで飲む、などの報告がある。その結果、2001年から2012年の対米輸出量は7052klから1万4131klと10年間で約2倍に成長している。また、豪州では日本酒をカクテルの原料として重用しているとの情報もある。つまり、米国や豪州では若者を中心に日本酒の飲み方が多様化し、消費量が増えていることを示す報告である。

モスクワでも、高級日本レストランで本格的な和食と日本酒を味わえる富裕層と、一般レストランや家庭で手軽に日本酒を楽しめる大衆層にセグメントしたビジネス戦略と実践が着実になされることを期待している。そして、ロシアの大衆が家庭やトラクチール(居酒屋)、バル(バー)でイクラ、スモークサーモン、塩漬けニシン、チーズ、ポテト、ピクルスなどを肴に日本酒を楽しんでいる姿を見たいものだ。

高級日本レストランへの日本酒輸出と併せ、ロシア大衆の食生活や嗜好にマッチする日本酒提案が実現すれば、これも一つの「おもてなし」ではないかと思う次第である。


MrTetsuo.jpgのサムネイル画像のサムネイル画像LAPITAアドバイザー
ロシアビジネスコンサルタント
鐵尾 安夫 

日魯漁業にて旧ソ連からの農水産物輸入を行うとともに鮭鱒母船操業通訳官を担当。
ソニーでは旧ソ連向け放送機器システム輸出および同機器デファクト化の推進を行うとともにシェワルナゼ外務大臣(当時)のソニー訪問をアレンジするなど、ソニーと旧ソ連のブリッジ役として活躍。
2007年よりロシアビジネスコンサルタント業務を行うテツオ・トレーディング株式会社を設立し、中堅・中小企業のロシアビジネス支援をはじめ、2008年よりロシアNIS貿易会のビジネスマッチング事業コンサルタント、2009年より外務省主催の「在ロシア日本センター訪日研修事業プログラム」の一環としてロシア経営者幹部を対象としたビジネスセミナー講師を担当。

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