日本企業グローバルビジネスサポートLAPITA(JTB)

  1. TOP
  2. レポート・コラム
  3. ASEAN
  4. 中間所得層増加によるインドネシアの新たなメンテナンス需要

中間所得層増加によるインドネシアの新たなメンテナンス需要

◆2014 年の新車販売台数はアセアン1 位に返り咲き

2014 年のインドネシア新車販売台数は120 万8019 台であった。タイ新車販売台数が落ち込んだこともあり、アセアンで1 位の市場へと返り咲いた。2007 年の433 万台から2013 年の123 万台まで、6 年間で2.8 倍へと成長したのだ。年平均で20%近くという高成長ぶりである。

経済成長の減速を背景に、ルピア安に伴う金利の高止まりや燃料料値上げなどの影響を受けた結果、2014 年の新車販売台数は前年比で1.8%減少してはいるが、一方で、このような経済要因があったにも関わらず甚大なダメージを受けないインドネシア経済の堅調さは、注目に値する。その根底にあるのは近年の経済成長を引っ張る個人消費者、特に中間所得層の増加だ。

◆外部環境の影響を受けにくいメンテナンス市場

インドネシアでは新車販売に主眼が置かれている。しかし流通バリューチェーンという観点で言えば、新車市場の拡大のあとに発生する修理点検などのメンテナンス需要は高まるだろう。

供給過多、押し込み販売、低価格モデルの販売プレッシャーなどでインドネシアの新車販売収益は低下傾向にある。一方、メンテナンス需要は景気に左右されにくく、安定した収益をもたらす。市場には常に一定量の車があるためだ。新車ディーラーにとっても新車販売後のメンテナンス需要には大きなチャンスがあるといえる。

◆新車販売台数とメンテナンス需要

インドネシアのメンテナンス市場プレーヤーは「家族経営で小規模な地元の修理場」と「新車ディーラー併設の整備工場」である。一般的に、中古車を購入する低所得層にとっては車両購入が精いっぱいであり、修理をする場合は純正品よりも安い交換部品を利用したいと考えている。つまり品質よりもコスト重視で、地元の小さな修理場を利用しているのだ。一方、新車を購入する高所得層は品質の高いメンテナンスを求めて新車ディーラーを利用する。

正確な統計はないが、インドネシア自動車産業に詳しいコンサルタントへのヒアリングによれば、修理のために新車車ディーラーに持ち込まれる車両はわずか2〜~3 割である。新車購入者の乗り換え期間が4 年弱のため、それより古い自動車は地元の小さな修理場に持ち込まれていることになる。

前述のコンサルタントによれば、現在2 極化されているインドネシアのメンテナンス市場に、2 次ユーザーとなる中間所得層が求める新たな市場ができ始めている。中間所得層のニーズが変化しているからだ。中間所得層の拡大により低燃費・低価格自動車施策での新車需要と、所得向上による高年式中古車需要も拡大が見込まれており、双方向からの需要が生まれた。

新車需要側からは、新車ディーラーの高価格メンテナンスからの、トップダウン型需要である。もともと高所得層は、新車購入に関する十分な情報・経験・所得を持っている。その上で、新車ディーラーによる高品質のメンテナンスを自ら選択しているのである。一方、新規で新車購入をする中間所得層は、収入とのバランスを考えれば維持費を下げたいが、高いと感じながらも新車ディーラーのメンテナンスを利用していた。新車に関する情報・経験が少ないために、ほかの選択肢がなかったためだ。

高年式中古車需要からは、「安かろう・悪かろう」から、高品質のメンテナンスを求めるボトムアップ型需要である。このようなユーザーは以前から存在していたが、新車ディーラーでは新車販売分の需要がすでに存在していた。ニーズに合うサービスを提供できるビジネスモデルがないため、低いところへ流れていたと考えられる。

◆狙うは中間所得層

インドネシアの新車需要は、高所得層から中間所得層へと移動しつつある。そして政府の自動車施策と国民の所得水準の向上が、その流れを後押ししている。

高所得者と低所得者にはまだ大きな差があり、依然として新車が購入できる消費者は富裕層に多い。一方で、2013 年に政府が行ったローコストグリーンカー(LCGC)施策によって低燃費・低価格自動車が投入されたことにより、中間所得層への新規需要のさらなる拡大が予想されている。

また、インドネシアの経済成長による所得⽔水準向上に伴い、1 世帯の可処分所得構成の変化が著しい。2009 年は、高所得層と中間所得層(アッパーミドル+ローワーミドル)の合計が全世帯の37%であったが、2015 年は73%と2 倍にまで拡大する見通しである。さらに、2020 年には85%まで増えると予想されている。

これからは、中間所得層が自動車市場の中心を担うと考えられる。そして彼らが、新しい市場の創出、成長を後押しすることになる。

今後は、中間所得層を狙い、彼らに合う商品・サービスを提供する必要性がさらに増していく。同時にインドネシアでの自動車産業にかかわるビジネスチャンスは、無限に広がっていくだろう。

※本記事は、レスポンスでのコラム「川崎大輔の流通大陸」の記事の一部を編集、再構築しております。


kawasaki.jpgのサムネイル画像川崎 大輔 (かわさき だいすけ)

香港の会社に就職後、アジアに8年駐在し、日本に帰国。ベンチャー企業の経営企画を経て、中古車企業のガリバーインターナショナルで海外事業部の立ち上げ。アメリカ事業、インド事業、タイ事業の立ち上げと海外事業を担当。2015年半ばよりAsean Plus Consulting LLCにて日系企業のアジア進出サポートを開始。

経営学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア研究センター外部研究員

 


JTBグループが国内外の独自のパートナーシップの構築により日本企業の海外進出をサポートするLAPITAでは、中古車買取販売のガリバーインターナショナルの海外事業を担当してきた川崎 大輔氏とともにASEAN地域の中古車市場の調査・視察のご支援をいたします。

詳細はこちらよりご確認ください!

中古車・アフタービジネスに特化したASEAN進出支援

PAGETOP