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【アジア中古車コラム】2014 年のタイ新車販売からひもとく中古車市場動向

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2015 年 2 月末に開催された、京都大学東アジア経済研究センターにおける「第 12 回 アジア中古車流通研究会」で講演させていただいた。テーマは「タイ中古車市場の現 状報告 〜2014 年のタイ新車販売台数から今後の中古車市場動向を探る〜」。今回のコ ラムはその時の講演内容を基に記した。


◆2014 年のタイ新車販売台数は前年比 3 割減

2014 年のタイにおける新車販売台数は前年実績に比べて 33.7%減少し、88 万 1832 台 となった。タイ国内で起こった 2014 年 5 月の軍事クーデター後の消費回復が予想より 遅かったことが原因だ。併せて、2011 年の洪水時の反動とタイ政府の自動車優遇施策 によって販売台数が急増した。

今回の新車販売台数の減少は、本来のタイ国内需要を一時的に超えてしまったため、 販売台数のトレンドが適正台数へ調整されていると考えられる。


◆流通調整局面に突入する中古車市場

流通循環という点から見れば、2014 年の新車市場は流通の調整局面に入っていた。

2011 年には洪水によって供給が追い付かず、新車販売台数が落ち込んだ。一方で 2012 年には、政府施策のファーストカーバイヤープログラムによる意図的な新車流通量の増進があった。2013 年前半は 12 年の受注残の影響もあり、結果として新車販売台数 が 100 万台の大台を大きく超えた。その結果、トレンドを相当程度上回り、2014 年に 市場流通量の調整が本格化したと考えられる。同時に、軍事クーデターの影響によってさらに減速した。

これからの中古車市場の動向を検討する際、先行指数となる新車市場の動きは重要だ。中古車市場が新車市場に追随すると考えれば、中古車市場はこれから流通調整の局面に突入するだろう。


◆タイのオークション市場における中古車市場動向

現在、タイのオークションには、1 年落ちの新しい小型乗用車が銀行の引き揚げ車として数多く出回っている。小型乗用車がオークション市場に大量流出することで、小型 乗用車の中古車価格が 1〜2 年前に比べ 30%近く下落。それに引きずられる形でその他の車の価格も下落している。

一方、銀行は自社のすべての引き揚げ車を市場に流出せず、制限している。オークション関係者によれば、銀行側と買い手側の価格が折り合っていないことが、市場流出を制限する理由だという。銀行は、レッドブックや契約書の記載価格で中古車価格を把握している。それにより本来の市場における中古車価格がつかめず、買い手との価格差を生じさせているらしい。

今後、銀行からより多くの引き揚げ車が出てくることで、市場が膨らむことが予想さ れている。引き揚げ車としての在庫を持ち続けることは難しく、どこかの時点で損益を確定する必要性があるためだ。そういった状況になれば、中古車価格はより大きく動く可能性がある。


◆タイのテント(中古車店)における中古車市場動向

現在、タイのテントでは中古車の販売不振が続いている。エコカー政策とファースト カーバイヤープログラムにより、新車の小型車価格が安くなったこと、銀行の低金利キャンペーンなどで中古車から新車へ顧客が流れたことが原因だ。また、タイ人の家計債務の増加、銀行の与信引き締め、クーデターによる政治不安の影響も中古車販売の不振要因となった。このような需要の減少によって中古車販売価格が下落している。


◆ファイナンス会社の中古車市場への対応

銀行系のファイナンス会社では不良債権(NPL)が増加した。ファーストカーバイヤープログラムによる新車市場の急拡大により、銀行系ファイナンス会社がさらなる収益獲得を目的として、本来なら車を購入しない層にまでファイナンスを提供したから だ。その後、銀行各社は NPL の増加に伴って与信を引き締め、中古車を中心としたファイナンスを減らしている。中古車市場には銀行系の穴埋めをするファイナンス会社 が少なく、中古車の販売不振に追い打ちをかけている。


◆2012 年以降のタイ中古車市場動向

エコカー政策とファーストカーバイヤープログラムがトリガーとなり、今のタイ中古車市場は価格下落、販売不振という状況にある。

安いエコカーの出現により、新車と中古車の価格差が縮まった。その後、収益獲得を 目指してファイナンス会社が信用拡大を行った結果、ローンの支払いが不可能となるユーザーが増加。多くの金融引き揚げ車が市場に流入し、中古車価格が下落した。

一方、ファイナンス会社の不良債権増加により、リスクが高い中古車ファイナンスの 与信引き締めを行い、中古車販売不振となった。今後、追加の引き揚げ車が市場流入し、価格が変化する可能性がある。

では、今後の中古車市場はさらなる不振に苦しむかというと、必ずしもそうではないと筆者は考えている。中古価格の下落により、新車と中古車の価格差が 2 年前と同じ レベルに戻る時期に、ユーザーに対しての中古車の魅力が一気向上するのではないか。 なぜなら、高年式で品質が良く、価格が安い中古車となるためだ。そのタイミングで、 新車市場の後を追い、中古車市場も調整局面へ突入していくだろう。

いずれにしろ、タイの自動車市場が本格的な回復に至るまでには少し時間が必要だ。 しかし、自動車産業にとっては大きなビジネスチャンスの時期となるであろう。


※本記事は、レスポンスでのコラム「川崎大輔の流通大陸」の記事の一部を編集、再構築しております。



kawasaki.jpgのサムネイル画像川崎 大輔 (かわさき だいすけ)

香港の会社に就職後、アジアに8年駐在し、日本に帰国。ベンチャー企業の経営企画を経て、中古車企業のガリバーインターナショナルで海外事業部の立ち上げ。アメリカ事業、インド事業、タイ事業の立ち上げと海外事業を担当。2015年半ばよりAsean Plus Consulting LLCにて日系企業のアジア進出サポートを開始。

経営学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア研究センター外部研究員

 





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