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【マレーシアレポート】クアラルンプールにおける日本食レストランレポート

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※ワンウタマショッピングセンターは買い物客で賑わっており、日本食もいたるところで見られる。

CNNによると、クアラルンプール近郊にあるワンウタマショッピングセンターは世界で4番目に大きなショッピングセンターだそうだ。意外に思われる方もいるかもしれないが、クアラルンプールはCNNが選ぶBest Shopping citiesの第4位に選ばれる買い物都市だ*1。

650以上の店舗が入っているワンウタマショッピングセンターには日系の伊勢丹やイオンも入っており、週末は買い物客でごった返している。ホテルが隣接されているが、クアラルンプール近郊という場所柄、観光客ではなくビジネス利用が多いそうだ。ショッピングセンターの買い物客の姿を見る限り、ほとんどローカルの方々ばかりと見受けられる。マレーシア人の購買力の高さに驚かされる。

1日かけても回りきれそうもないくらい大きなショッピングセンターには、日本食レストランも溢れている。マレーシア日本食品消費動向調査(*2)によると、最近のトレンドとして、焼き鳥、ラーメン、ベーカリー、とんかつ、うどんといった専門店化や新スタイルなどが挙げられている。ワンウタマショッピングセンターにも麺屋武蔵や牛角といった専門店(連結した伊勢丹の内に食のストリートがある)から、回転寿司の栄寿司、和民といった新スタイルの店舗まで様々な形態の日本食レストランが混在している。またショッピングセンター内のイオンには、鶴橋風月(お好み焼き)やビアードパパ、ミスタードーナツもあれば、刺身コーナーやお弁当コーナーなどテイクアウト日本食も豊富であり、日本での景色とあまりかわらない。

日本食レストランの出店が加速している背景として、マレーシアの所得の伸びから、シンガポールやタイから次のターゲットとしてマレーシアが注目されているからだという。この買い物客の数を見れば納得できる理由だ。またこのブームの背景として、健康意識の高まりと政府の啓蒙活動も後押し、サプリメントやオーガニック食品の広がりとともに、安全性が高く健康に良いという認識が広く共有されている日本食ということから、ブームの追い風となっているようだ。

しかし約60%の国民がマレー系、ムスリムであるマレーシアで気になるのはやはりハラルの問題である。上記の日本食レストランでは、店頭にハラルマークはでていない。ラーメン店によっては豚骨ラーメンを、レストランによってはお酒をサーブするところも多い。それは、高所得である中華系マレーシア人をターゲットとしているからである。JETROが「らーめん山頭火」の担当者にインタビューをしたところ、来客層として、日本人が1割に中華系マレーシア人が9割と、当初の予想通りだったという。

たしかに、クアラルンプールのような大都市で、富裕層~中間層の中華系マレーシア人をターゲットとして出店するのはひとつの戦略であろう。一方でもし現地で浸透をさせていくのであれば、やはりハラルは欠かせない。マレーシアで最も大きな外食チェーンの「ケンタッキーフライドチキン」をはじめ、「マクドナルド」「ピザハット」などの国際ブランドはもちろんハラル認証を取得していることで、マレー系もターゲットとしている。またローカルのチェーンレストラン「オールドタウン・ホワイトコーヒー」や「パパリッチ」、東南アジア各国にも展開する「シークレット・レシピ」もハラル認証を取得している。マレーシア全体をターゲットにできるボリュームは大きい。

さらに観光客が多く来るセントラル・マーケットでは、飲食店がハラル認証マークを大きく目に留まる場所に掲げ、観光客に対してもアピールしているようなのだ。ムスリム向けの旅行関連施設格付けのクレセントレーティング社(シンガポール)は、ムスリムフレンドリーな観光国のランキングで3年以上マレーシアを1位に挙げている(*3)。実際にマレーシアへは2012年のマレーシア政府観光局データ(*4)では、イランから127,404人、サウジアラビアから102,365人、オマーンから24,977人、イラクから21,939人と中東からの旅行客も多い。世界的にも信頼度、認知度の高いマレーシアのハラルロゴを観光地で掲げることで、ムスリム旅行者の店への誘客につながっていることが容易に推測できる。

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※観光地にてハラル認証マークを店頭に大きく掲げている店舗

代表的な日本料理といえば、お寿司や刺身。他にも豚肉をつかわなければハラルではないのか、と思われる方もいるかもしれないが、みりんや醤油など調味料をはじめ、ハラル認証をとるのはハードルが高いようだ。ポークフリーとハラルは異なる。ショッピングセンターで見かけた寿司レストランも、ハラル認証のマークはついていなかった。大阪市立大学の多和田先生の研究(*5)によると、ハラルの観点から、マレーシアのレストランは1.ハラル(ハラルキッチン)認証を得たレストラン、2.「ノン・ハラル」等のハラルではないことを明確に表示しているレストラン、3.いずれの表示もないレストランの3種類に分けられるという。3番目のレストランには、実質的には食材はハラルだが認証のないもの、豚由来の食材を使っていないがハラルか不明のもの、食材はハラルだが、アルコール類を提供するため認証を申請しないものなど細分化されているという(*実際にアルコールを提供するが、ハラルキッチン認証を取得しているホテルレストラン等もある)。ムスリムの消費について差異がでるのは、3番目のパターンで、ハラル表示のあるレストランにしか入らない、「ポークフリー」であっても口にすることはできないという人もいれば、認証ではなく日常の経験値から、マレー人の店員や客がいることやレストランの雰囲気(アラビア文字、イスラーム的な装飾など)でわかるという人もいるそうだ。

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※店頭にNon-Halalと表記されているレストラン

ジェトロの「マレーシアにおける外食産業基礎調査」 (*6)によればマレーシアはもともと、外食文化があり、世帯消費支出の中で、レストラン・ホテルへの支出が11%と高いことを指摘している。また所得増加によって都市部の消費者は外食傾向が増え、マレーシアの外食産業を発展させ、外食産業は年間平均2%で成長しているという。そう考えると、所得の高い中華系マレーシア人をターゲットとするのも一つの戦略だが、一方で、今後さらに成長が見込める国民の60%を占めるマレー系やムスリム観光客を視野にいれた、ハラルの日本食レストランを検討することもできると思う。そんな中、5つ星ホテル内の日本料理レストランでマレーシアのハラル認証を初めて取得した日本食レストラン「あげ半」といった事例もある。今後、マレー系の所得が大きくなっていくことを考えると、ハラルの日本食は差別化になるのではないだろうか。

現地の日本語フリーマガジン「セニョ~ム」(*7)にて、あげ半が入居しているグランドブルーウェーブホテルのAchiek Sidek氏は、こういっている。

「一番苦労したのは日本料理です。調味料はすべてハラルマーク付きのものを使用しますが、昆布やひじきなどの乾物や漬物なども加工食品ですからハラルマークは必須。そうなると、日本産の材料は使えないものがほとんどなので、多くはシンガポールなどから輸入しています。」

レストランはハラル認証取得後、日本食好きのムスリム利用者がかなり増え、混み合っているという。日本食ブームの中、ショッピングセンターの日本食レストランを横目にしているムスリムは多いのかもしれない。上記のあげ半の例の通り、日本から輸出した材料でハラル認証を取得するのはまだハードルが高そうだ。そうであればマレーシアを製造拠点とするのも一つである。マレーシア自体はマーケットとしては決して大きくはないが、国際的に信頼度の高いマレーシアハラル認証を取得し、他のムスリム圏へ輸出することも一つの考え方だ。フリーマガジン「セニョーム」のハラル特集では、マレーシアに進出した企業担当者へのインタビュー記事があるが、Taisho Pharmaceutical (M) Sdn. Bhd. はマレーシアの工場で生産したリポビタンDをカタール、バーレーン、アラブ首長国連邦へ輸出をしており、またKEWPIE MALAYSIA SDN. BHD.は将来的にマレーシアをハブにして、イスラム圏での「Kewpie」ブランドの浸透を進める計画をもとに、マラッカにキユーピー初となるハラル工場を設立したそうだ。

マレーシア政府が自国のハラル制度を国際基準とし、外国からのハラル食品製造業の誘致、マレーシアからの輸出を促進するグローバル・ハラル・ハブを構想していることから、今後のハラル物流の需要の増加を見越して、日本通運もハラル認証を申請した。リリースによると、今後はマレーシアを起点に、インドネシア・バングラデシュ、さらには中東・アフリカといった大イスラム経済圏におけるハラル物流サービスの構築を目指しているそうだ(*8)。

さて、今回ワンウタマショッピングセンターを訪ねたのは弊社がハラル産業開発公社(HDC)と共催にて実施した「マレーシア・ハラルマーケット・ビジネスマッチング(現地商談会)」の会場となるHDCのオフィスと隣接していたからだ。日本企業の海外進出をサポートするラピタでは、マレーシアのハラル認証取得に関するサービスを提供する政府機関ハラル産業開発公社(HDC)と協業にてセミナーやディスカッション、商談会の場を提供してきた。マレーシアに製造拠点をつくるというのは、大手の企業でないと難しいと考える方も多いかもしれないが、今回参加した企業は中小企業も含まれている。現地ですでにハラル認証を取得した現地企業との合弁の可能性も含めて、参加企業の希望に基づいて、現地企業とのマッチングをした。

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HDCグローバルハラルサポートセンター訪問およびマレーシア政府機関とのラウンドテーブルディスカッションの様子

 本年も引き続き、セミナーや商談会、視察ツアーを企画していく予定のため、是非多くの日本企業に参加いただき、ムスリム圏へのマーケットを検討いただければ幸いである。


*1 「World's 12 best shopping cities」 CNN 
*2 マレーシア日本食品消費動向調査 2012 年 12 月 日本貿易振興機構(ジェトロ) 農林水産・食品部、海外調査部 クアラルンプール事務所 (PDF)
*3 「Top Halal Friendly Holiday Destinations - 2014」 Crecebtrading 
*4 「MALAYSIA TOURIST ARRIVALS BY COUNTRY OF NATIONALITY 2012」 Tourism Malaysia (PDF)
*5 「イスラームと消費社会:現代マレーシアにおけるハラール認証」 多和田 裕司 (PDF)
*6 「マレーシアにおける外食産業基礎調査」 2011 年 3 月 日本貿易振興機構(ジェトロ)クアラルンプール事務所 
*7 「Senyum セニョーム No.52 2013 December/ 特集 ハラルのお勉強」 (PDF)
*8 「マレーシア日通ハラル物流認証申請が完了、取得へ」 日本通運株式会社


 ラピタにおける過去のレポート:2014年2月17日開催 マレーシア・ハラルマーケット・ビジネスマッチング報告書

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