好きな絹糸を選び、自らの手で撚る
体験は、職人が繍った桜を眺めながら、花びらなどのモチーフを加える場所を決めるところから始まります。トレース台の上に図案と生地を重ね、透けて見えるモチーフの形をチャコペンシルで写します。
続いて、色とりどりの絹糸から、作品に使いたい色を選びましょう。選んだ糸はそのまま使うのではなく、職人の手元を見ながら自分で撚り、刺繍に使う一本の糸に仕上げます。
細い絹糸を分けてそれぞれ撚り、さらに複数の糸を合わせて撚る動作は、初めてではなかなか思うようにいかないかもしれません。職人が隣で手の動かし方を示しながら、一人ひとりの進み具合に合わせてサポートします。
作品の表情を左右する糸を自分の手で整える時間も、江戸刺繍を知るための大切な工程です。
桜に自分の一針を添え、作品を見ながら技の背景を知る
生地を張った刺繍台の上に右手、下に左手を置き、左手で針を押し上げ、右手で下へ返します。両手を交互に動かしながら、絹糸を隙間なく並べるように、選んだモチーフの面を少しずつ埋めていきます。
大きな刺繍台は簡単に裏返せないため、縫い始めと縫い終わりの糸始末もすべて表側で行います。家庭で行う裁縫とは異なる動きに戸惑うことがあっても、職人が手元を確認しながら丁寧に指導します。
刺繍が終わったら、生地を桐箱の大きさに合わせて切り、蓋の上面にはめ込んで完成です。職人が繍った桜の隣に並ぶのは、自分の手で繍い上げたモチーフ。双方の手仕事が一つの作品になった瞬間、思わずため息がこぼれるような達成感に包まれるでしょう。
完成後は、刺繍に使った絹糸や針、色見本、職人の作品などを見ながら、江戸刺繍を知る学びの時間です。絹の生地に絹糸を使うことや、糸の太さや撚り方によって光沢、陰影、やわらかさが変わることなど、先ほど体験した作業の意味を職人がひもときます。自分で針や糸を扱った後だからこそ感じられる、道具が持つ意味や職人の技術。刺繍の背景にある歴史を感じながら、体験の一時を締めくくりましょう。
江戸刺繍の奥深さを、旅の記憶とともに
「実際に絹糸と針を扱い、作品を見るだけでは分からない江戸刺繍の緻密さや奥深さを感じてほしいですね。歴史や糸、針の多様さにも触れ、受け継がれてきた職人技への理解を深めてもらえたらうれしいです」と話すのは、ディレクターの小池佐和さん。熟練職人の刺繍と自分の一針が重なった桐の小箱を日常の中で鑑賞しながら、江戸刺繍に向き合った時間を思い出してください。
2025年に結成された、35年以上の経験を持つ熟練者を含む4人の江戸刺繍職人集団。伝統技法に一切の妥協を許さず、帯や着物からアクセサリーまで幅広く製作。伝統的な品から現代的なアイテムなど幅広いものづくりを通じ、江戸刺繍の繊細な美しさと手仕事の価値を伝え続けている。