刀鍛冶の魂を受け継ぐ、伝統の技法「総火造り」
日本刀の製造に用いられていた「総火造り」とは、型を使用せずに熱した鉄を叩いて形作る伝統製法です。形のない鉄を何度も鍛え上げていくことで、丈夫かつ理想の形を生み出すことができます。
正次郎鋏刃物工芸が持つ「総火造り」の技術は、日本におけるラシャ切鋏の始祖・吉田弥十郎氏に故・石塚長太郎氏が従事したことにまで遡ります。代々と受け継がれる「総火造り」の技術を、六代目正次郎も受け継ぐこと約30年。千葉県伝統的工芸品にも指定され、数々の包丁やペティナイフ、裁ち鋏などが生み出されています。
900度に熱された鉄を何度も叩いて成型していく
正次郎鋏刃物工芸のペーパーナイフ作り体験は、自分が作るナイフの形を決めることから始まります。見本として用意されている形を作るのはもちろん、ゼロから作り上げるのが「総火造り」の特徴であるため、見本以外の好きな形でも問題ありません。
職人と一緒に作る形を決めたら、さっそく鉄を叩いていきます。約900度に熱された鉄は真っ赤に染まり、職人の指示に従って金槌で叩きます。この時、手首を使わずに鉄と並行になるように叩いていくのが綺麗な形にするためのポイント。正しく叩けると金槌で打つ時の音もよくなるのだとか。
ある程度の形ができてきたら、金槌を水で濡らして叩きます。すると、表面の膜が取れてツヤが出てくるのがわかります。
変幻自在に鉄を成型し、世界に一つだけのペーパーナイフが完成
時には繊細に、時には大胆に鉄を折り曲げることも。まっすぐな棒の形をしていた鉄が、気づくと自分が思い描いていた形に近づいていく様子に思わず息をのむでしょう。
ペーパーナイフにする部分を切り落としたら自然にゆっくりと熱を取り除いていきます。急いで冷ましてしまうと折れてしまうので要注意です。
刃の部分を仕上げるためにサンドペーパーで削っていく工程では、火花が飛ぶ場面も。ここでしっかりと削ることで鋭い切れ味のペーパーナイフが出来上がります。最後は持ち手の部分に藤(とう)を巻けば、世界に一つだけの作品が完成します。
作って終わりではなく、その後も愛着を持って使い続けられる唯一無二の体験
正次郎鋏刃物工芸での体験は、決して作って終わりではありません。完成したペーパーナイフを自宅でも使い、20年、30年と使い込み、手入れをしながら愛着を持って使い続けられる体験です。
物で溢れ、使い捨てが当たり前になった現代、ゼロから物を作り上げる体験をすることで、改めて同じ物を使い続けることの素晴らしさや日本のものづくり文化を感じられる体験が、正次郎鋏刃物工芸にはあります。
1967(昭和42)年、千葉県成田市にて創業。「ラシャ切鋏」の技術を生かし、熱した鉄を金槌で叩いて形作る技法「総火造り」で刃物を作り続ける。日本刀の製造技法と起源を同じくする技法で生み出される鋭い刃物は国内外で高い評価を得ており、東京都指定の伝統工芸品のひとつにも選出されている。