物言わぬ人形に願いを込める日本文化
日本古来より文化のひとつとして受け継がれてきた日本人形。美しい芸術品であるだけでなく、知人や家族の健康や安全、子どもの成長を祈願する存在として、日本人から長く広く愛され続けてきました。
真多呂が伝統を受け継ぐのは、日本人形の種類のひとつである「木目込み(きめこみ)人形」。木製の胴体に彫られた溝に布地を押し込んで衣装を着せ付けた人形です。有名な日本人形の種類である市松人形に比べて小柄なサイズであることから、住宅の広さを問わずに広く普及したといわれています。
賀茂人形から木目込み人形へ。歴史を紡ぎ続けた290年
木目込み人形の発祥は今から290年ほど昔。京都の上賀茂神社に仕えていた「高橋忠重」が作った小ぶりの人形がはじまりです。木から手彫りで形を整えた人形は、神社の名から「賀茂人形」と呼ばれ、ゆっくりと京都に広まっていきました。
その後、さまざまな職人によりさまざまな発展を見せた賀茂人形は、東京の人形師「吉野栄吉」の手で明治時代に東京に渡ることになりました。栄吉により、胴体を木彫りから型抜きへと進化させたことで大量生産が可能に。名称も「木目込み人形」へと変化し、手芸や人形作りを楽しむ市民へと広く普及していきました。
大胆に、そして繊細に。気持ちを乗せて布を木目込む。
本体験では、木目込み人形作りの工程を最後まで行っていただきます。桐のおがくずと正麩糊(しょうふのり)を混ぜた桐塑(とうそ)を型にはめて作られた胴体へ、衣装となる布を順番に貼り付けていきます。衣装は選んだ柄をお好みで。布地を見ただけで旅の記憶を思い出せるような一枚を選びましょう。
お好みの柄の布を選んだ後は、胴体の溝にヘラを使って布を押し込んでいきます。正麩糊を使って布がズレないように固定しながら、一枚一枚じっくりと。背中、左袖、右袖、履き物、袴と順番に木目込む時には、ぜひ大切な誰かの顔を思い浮かべてみてください。
一所懸命に向き合った人形が見せるやわらかな笑顔
完成した胴体に頭部をはめ込み、ブラシで髪を梳かした後は、最後に髪型を整えて完成です。素敵な髪型にセットできた時、あなたの目にはきっと人形の顔がやさしい笑顔に見えていることでしょう。
思いを贈る日本文化を木目込み人形を通じて体験しよう
発祥の地・上賀茂神社から唯一の正当伝承者に認められる真多呂の木目込み人形は、芸術品の枠を越え、知人や家族に寄り添うお守りのような存在です。
言葉にしてこなかった「いつまでも元気でいてほしい」「大きく健やかに成長してほしい」といった思いを込めながら、あなたにしかできない人形作りを体験してください。
1919(大正8)年に現・台東区上野にて開業。初代・金林真多呂が賀茂人形の技法を東京に持ち帰った吉野栄吉の子に師事し、現代の木目込み人形の基礎を築いた。
雅やかで煌びやかな装いと柔らかな表情が共存する真多呂人形は、木目込み人形の発祥の地・上賀茂神社からも高く評価され、唯一の正当伝承者の認定を受けている。雅やかで煌びやかな装いと柔らかな表情が共存する真多呂人形は芸術品としての評価も高い。近年は伝統的な節句人形作りに留まらず、アニメやゲームのキャラクターを模したデザインにも進出。国内外の多くのファンから支持を集めている。