長い歴史を通じて「意思」を伝えてきた印章
「印章」は日本では広く「はんこ」と呼ばれており、日常生活のさまざまなシーンで活用されています。木や石に文字が彫刻されており、大切な契約に対する意思の証明や、絵画や書の作者を証明する印など、人や団体の存在を示すものとして使われています。
印章の始まりは、古くはメソポタミア文明の時代までさかのぼります。印章が登場したのは紀元前4,000年とも6,000年ともいわれており、当時から認証のための道具として使われていたそうです。
日本に伝来したのは2,000年ほど昔のこと。当時の中国である漢を治めていた光武帝が日本の倭奴国王に贈った金印が始まりであるといわれています。その後は一部の貴族階級だけが持つ私印として広まり、さらには奈良時代の公印、平安時代の花押へと形を変えていきます。現在の印章制度が定まったのは明治6年から。太政官布告において実印が捺されていない公文書は裁判における証明にならない」ことが記されたことで、印章がもつ法的な効力が明確になりました。
地域のコミュニケーションを支えてきた竹田印店
竹田印店は1930(昭和5)年に青梅市御岳で創業。現代よりも印章が日常的に使われていた時代に地域のコミュニケーションを支える役割を担いました。二代目店主の時代に青梅市勝沼へ支店を出し、現在は本店へ。三代目店主・阿部宏氏が黄綬褒章を受章された一級印章彫刻技能士・間宮壽石氏とともに、八王子以西で数少ない珠玉の一品を作り上げる印章店を守り続けています。
世界にひとつだけの印章を彫り上げる贅沢なひととき
本体験では、ご自身が選んだ一文字を印章へ彫刻。世界にひとつだけの印章を作り上げた後は、メッセージを記した絵はがきに押印し、青梅市内の郵便局から手紙を出していただきます。
体験の始めは、印章の歴史講義から。今や世界でも珍しい文化となった印章の成り立ちから役割まで、印章に向き合い続けた熟練の職人が語ります。日本古来の文化である印章の知識を身につけることで、これから印章に向き合う時間に期待が膨らむことでしょう。
印章に彫刻するのは、事前に選んでいただいた漢字の一文字です。印章に使われる「篆書体」を見るのははじめてという方も多いはず。紙幣や公文書に使われる篆書体の文字を印章に彫り入れる時間は、普段味わうことのない非日常的な体験になってくれるでしょう。
印章に使われる「青田石」は、中国浙江省(せっこうしょう)青田県原産の石材です。ロウのような性質を持ち、女性や子どもでも彫ることができる柔らかさがあります。墨で書き入れられたガイドに沿って鉄筆の刃を入れる作業には集中力が必要です。しかし、やがて彫り上げた印章に朱肉を浸し、真っ赤な印が形になった姿を見た瞬間には、きっと充実した時間だったことを振り返ることができるでしょう。
印章は自分の分身。一押しに込める願いに思いを馳せる
完成した印はあなた自身を示す世界で唯一のもの。体験の最後には、あなたの分身ともいえる印を押した絵はがきをポストに投函していただきます。大切な人に思いを伝えるのか、自宅に届いた絵はがきを見て旅の思い出を振り返るのか。ぜひ旅の締めくくりにふさわしい送り先を選んでください。
自らの手で彫り上げた印章は、もちろんお持ち帰りいただけます。体験の記録をSNSに投稿した方には、印章を保管できる印袋をプレゼント。ぜひ自分の分身とも言える印章を見返し、日本古来の意思・責任の表現方法である印章に触れた思い出を振り返ってください。
1930(昭和5)年に青梅市御岳で開業。西多摩地区唯一の全日本印章業協会所属の印章専門店として、個人から企業、行政まで幅広い顧客に求められる印章を提供し続ける。95年の歴史に裏打ちされた確かな技術が生み出す印章は、地域に多くのファンを生み出し続けている。近年は「武蔵御嶽神社ご祈祷印」や青梅の「梅の小枝印」の制作、篆刻教室の開催など、文化としての印章の普及に尽力し続けている。