刀鍛冶の時代から脈々と受け継がれた刃物鍛冶の技術
日本人の生活のあらゆる場面で登場する刃物。料理に使う包丁、裁縫に欠かせない鋏、農業の必需品である鎌や鉈。古くは刀を打つ技術として発展した鍛冶の技法は、今は人々の生活を支える刃物作りという形で脈々と受け継がれています。
正次郎鋏刃物工芸が受け継ぐ技術の源流は、日本におけるラシャ切鋏(裁ちばさみ)の始祖・吉田弥十郎氏に遡ります。刀鍛冶の弟子だった吉田氏は、廃刀令を機に日本独自のラシャ切鋏を創製。日本人には扱いにくかった西洋のラシャ切鋏を改良し、瞬く間に国内へ広く普及させたといいます。
現当主である六代目正次郎の曾祖父にあたる初代長太郎が吉田氏に師事。刀鍛冶の流れを汲む技術は祖父である初代正次郎、父である五代目正次郎を経て、今も正次郎の名と共に現代へ受け継がれています。
伝統技法「総火造り」で鍛造するペティナイフ作りを体験
本体験では「総火造り」の技法によるペティナイフ作りを体験していただきます。整形に適した温度まで熱した鋼の棒を金槌で叩き、刃物の薄さまで伸ばしていきます。黄金色に熱せられた鋼の温度は約1,000度。金槌を力を込めて振り下ろし、ゆっくりと、着実に刃物を形作りましょう。
体験で製作するペティナイフの素材は「安来鋼(やすきはがね)」と呼ばれる貴重な金属。粘り強く刃物に適した鋼であり、中でも「白紙」と呼ばれる種類は、熟練の職人が扱えばシャープな切れ味の刃物に生まれ変わります。決して扱いが簡単な鋼ではありませんが、体験では六代目正次郎の指導により、自らの手で切れ味の良いナイフを生み出すことができるでしょう。
金槌を振り下ろすたびに感じる感動と喜び
日本の刃物が切れ味鋭い理由のひとつに、鋼の純度の高さがあります。熱して叩くを繰り返すうちに、刃物の表面には黒く濁った「酸化膜」が浮かび上がります。熱する、叩く、剥がすを繰り返すうちに見えてくるのは、純度の高い鋼だけが持つ美しい鉄肌。表面に見える輝きは、世界に一本しかないあなただけのペティナイフが完成に近づいている証拠です。
重い金槌を何度も振り下ろし、腕が上がらなくなってきたころには刃物の形が見えてくるはず。最後の仕上げは熟練の鍛冶職人に任せ、美しいナイフの完成を待ちましょう。自宅に届くのはおよそ2ヶ月後。思いや願いを託した文字が刻印された宝物が届く日を楽しみにお待ち下さい。
ナイフを見るたびに思い出す鋼と向き合った無二の時間
体験の最後には、2種類のメニューを選べます。プロから「研ぎ」のレクチャーを受けるもよし。安来鋼で作られた、ここでしか手に入らないタグ風アクセサリーを手にするもよし。自宅に届いたナイフを見ながら、ぜひ鋼と向き合った貴重な経験を思い返してください。
1967(昭和42)年、千葉県成田市にて創業。「ラシャ切鋏」の技術を生かし、熱した鉄を金槌で叩いて形作る技法「総火造り」で刃物を作り続ける。日本刀の製造技法と起源を同じくする技法で生み出される鋭い刃物は国内外で高い評価を得ており、千葉県指定の伝統工芸品のひとつにも選出されている。