東京銀器の祖である流派を継承
東京銀器の鍛金技法は、江戸時代の平田家を祖とすると言われています。日伸貴金属は9代続いた平田家の9代目・平田宗道の一番弟子だった上川市雄(日伸貴金属初代・上川宗照)が創業しました。今では平田家の流派を継ぐ工房は数軒ほどしか残っておらず、日伸貴金属は数少ない鍛金技法を取り入れている工房です。
純度の高い銀を使用して格別の輝きを
経済産業大臣指定伝統的工芸品である東京銀器は、スターリングシルバーと呼ばれる純度92.5%の高品質な銀を使って作られます。それだけでも高品質な銀器が完成するのですが、日伸貴金属では99.9%の銀を使用することがほとんどです。より純度が高い銀は光沢が強いだけでなく、使っていくうちに黒く変色せず、お手入れも簡単です。
職人歴31年の講師が丁寧に説明
体験は東京銀器の歴史や制作過程などに関する映像を見ることから始まります。床に座ったり、低い椅子に座ったりして体験を行うのは、江戸時代に行われていた制作環境と同じ状態を感じてほしいから。江戸時代の職人になった気持ちで取り組みましょう。
映像を見終えたら、さっそく金槌を手に取ってデザインを打つ練習が始まります。職人が丁寧に持ち方や打ち方のコツを伝えてくれるので、初めてでも安心です。
感性に従って”楽しみながら”模様を入れていく
練習の次は、実際に制作していくスプーンの柄の部分に目印となる線を入れていきます。線は真っ直ぐでもいいですし、斜めに入れても問題ありません。
線を入れ終えたらデザインの異なる3種類の金槌を手に取って、1〜2センチほどの高さから打って模様を入れていきます。機械的に模様を入れていくのではなく、3種類の金槌を使い分けて自由に打っていくと、光が乱反射を起こして綺麗な風合いに仕上がります。
金槌で模様を入れたら、刻印を手打ちで刻みます。刻印の種類は数字やアルファベット、ハートや肉球などのマークから好きなものを選び、職人と一緒に打ち込みます。せっかくの刻印がずれてしまわないように、職人がしっかりサポートしてくれるのは嬉しいポイントです。
ここでしかない仕上げを施して圧倒的なツヤを表現
次に、当て台のくぼみにスプーンを乗せ、曲線部分を作るために木槌で打ち込んでいきます。当て台に空いている穴は、すべて作品を作るためのものであり、今の形になるまで60年以上かかったのだとか。
仕上げにクリームで磨くと東京銀器特有の輝きが増しますが、日伸貴金属の体験はここで終わりではありません。他の地域では行わない乾拭きを最後に施すことで、よりツヤのあるアイススプーンが完成。木箱に入ったオリジナルのアイススプーンを見ると、自然と愛着が湧いてくるでしょう。
自由に作るからこそ愛着が強く湧いてくる
日伸貴金属では、ものづくり文化に楽しく触れてほしいとの思いから、あえて制作するデザインを決めていません。型に縛られるストレスをなくし、自由に模様を表現することで、愛着の湧き方も格別なものとなります。
ものづくりが盛んな台東区に工房を構えるからこそ、多くの人に楽しく伝統工芸を体験してほしいとの想いで体験の工程が考えられています。作った後も生活に取り入れる「用の美」を感じ、時にはギフトとして贈る人を想いながら作品作りに取り組む素敵な体験をしてみてはいかがでしょうか。
有限会社日伸貴金属は昭和39年(1964年)に創立し、江戸時代末期から伝わる「銀師(しろがねし)」として伝統的な技を継承する東京銀器の工房。東京銀器の技法の祖と言われる平田家の技法を継承し、ものづくりを通じて地域社会への貢献や文化の発信にも力を入れている。