日本企業グローバルビジネスサポートLAPITA(JTB)

  1. TOP
  2. レポート・コラム
  3. ASEAN
  4. 【フィリピンコラム】ドゥテルテ政権誕生とアキノ政権総括

【フィリピンコラム】ドゥテルテ政権誕生とアキノ政権総括

新大統領決定1週間(4営業日)で株価6.4%急騰

 
 5月9日に投票が行われたフィリピン大統領選挙において、ロドリゴ・ドゥテルテ ダバオ市長(71歳)が、現アキノ大統領後継候補のマヌエル・ロハス氏らに大差をつけて圧勝、6月30日に新大統領に就任する予定である。

 ドゥテルテ氏は、地元ミンダナオ島ダバオ市の検察官などを経て、1986年からはダバオ市の市長や副市長などとして約30年間に亘ってダバオ市政に関与してきた。 ドゥテルテ氏は、最悪と言われたダバオ市の治安を劇的に向上させたことなどで大衆の支持を得、今回の選挙においても、犯罪の撲滅を特に強調、大統領の座に上り詰めることとなった。

 ただ「犯罪者は殺害する」などと過激な発言を繰り返し、実際、超法規的な殺人を繰り返してきたとの疑惑もあるうえ、経済や外交等に関する政策に関しては明確にされてこなかったこと、海外からの信認も厚い現アキノ政権の政策が大きく変化してしまうという不安などを背景に、大統領選におけるドゥテルテ氏の優位が強まった4月後半からは、ペソ、株式市場ともに下落傾向を辿り、投票日前の最終営業日である5月6日のペソ対米ドルレートは1米ドル=47.090ペソ、代表的な株価指数であるフィリピン証券取引所指数(PSEi)は6,991.87ポイントと、各々47ペソ、7,000ポイントという大台割れまで下落していた。

 しかし、投票終了後の営業日初日5月10日にはペソ対ドルレートが46.750ペソへ、PSEiが7,174.88ポイントへと急騰、その後も上昇基調を辿り、5月13日には、ペソが46ペソ台半ばの動きとなり、終値は46.555ペソとなった。PSEi終値は7,436.79ポイントで、5月6日終値に比べ約445ポイント、率にして6.4%の大幅上昇となっている。

 このような投票日終了後のペソやPSEIの大幅上昇は、混乱の可能性もあった投票が平穏裏に完了したことへの安堵感、投票日前の下落の反動、新政権誕生祝賀ムードにくわえ、ドゥテルテ氏陣営が、「経済政策は基本的には現行政策継続」と表明したことなどによる。また、ドゥテルテ新政権が政策面での大きな誤りを犯さない限り、フィリピンの経済的ファンダメンタルズの良好さ、平均年齢23歳と若く人口ボーナス期が長く続く、英語力に優れている、男女平等度がアジア断トツなどというフィリピンの強さを背景に、今後も安定成長が続くとの楽観論が拡がったことによる。

 国民の不安を払拭するため、ドゥテルテ陣営は5月10日、政権移行チームを発足させ閣僚の人選を開始したと表明した。さらに新政権での主要経済閣僚に就任することが確実視されるカルロス・ドミンゲス氏が5月12日に、新政権における8項目の暫定経済政策指針(アジェンダ)を発表した。大統領就任にまでの時間を考えると、異例の速さの発表といえるが、新政権に対する不透明感緩和に貢献したようである。8項目とは以下のとおり。

・現行経済政策の継続と維持(徴税機関の改革断行という条件付き)
・官民連携(PPP)主導でインフラ整備推進(インフラ支出対GDP比率5%維持)
・外資直接投資拡大のため外資規制を規定する憲法条項緩和(ダバオ市経済政策をモデルに)
・地方発展のための農業効率性向上を推進
・土地登記4機関の弊害を改善し土地保有の安全性・確実性・担保性を向上させる
・産業界ニーズにマッチする数学、論理的思考などの能力を高めるような教育改革
・物価連動税制導入などによる国家税制システムの改善
・教育推進や母体健康を目的とした条件付現金給付(CCT)プログラムの改善や拡充

 この8項目のアジェンダだけで不透明感や不安感を払拭するには不十分であるし、外交政策に至ってはほとんど不明のままである。具体的な政策に関しての発表やコメントが待たれる状況ではあるが、外為、株式市場の動きから見ると、現時点では、新政権への期待が高まっていると言えよう。ただし、過去においても政権交代への期待は非常に高かったが、その後大きな失望感に変わったという例も少なくないだけに、今後の動きを注視していく必要があろう。

一方、現アキノ政権は、発足当時にはその実行力等に懐疑的な見方をする向きもあったが、実際には経済面でも比経済面でも安定性を高め、フィリピンに対する評価を過去の「アジアの病人」から「アジアの期待の星」へと大きく好転させたと評価する向きが多くなっている。

アキノ政権発足後6年間のGDP平均成長率は6%超となる見込み(2015年末時点の移動平均は6.2%)でありASEANでもトップクラスの高成長国となっている。2013年には7.2%に達し、その後も6%前後の高い伸びを維持している。この間、経常収支は黒字を継続、財政赤字も縮小傾向を辿り、プライマリー収支は2015年まで5年連続の黒字を続けている。

このような安定成長継続、財政収支や国際収支改善、汚職や不正減少などが評価されたことで、国際的有力格付機関によるフィリピンの格付は、2013年に投資適格最低基準(BBB-相当)に到達、2014年は一段と上昇、BBB相当となり、インドネシアやベトナムよりも高い評価となっている。プリシマ財務長官は世界最高の財務大臣に複数回選出され、テタンコ中央銀行総裁も世界の中央銀行総裁ランキングにおいて、常に最上位のAクラスという評価を受けてきている。

ドゥテルテ新政権に対しては、アキノ政権のこのような正の遺産を引き継ぐとともに、依然課題となっているインフラ整備、貧富の差縮小、治安改善、都市と地方の格差是正などを望む声が高まっている。


LAPITAフィリピンアドバイザー
WCLソリューションズ・フィリピン
伊佐治 稔(日本証券アナリスト協会検定会員)

PAGETOP