【ロシアコラム】日本企業とロシア企業のビジネスメンタリティ
筆者は日本とロシアの中小企業間のビジネスマッチングとは別に、日本の中小企業向けの「ロシアビジネスセミナー」とロシアの企業経営幹部を対象とする「日本ビジネスセミナー」講師を務めている。今回はセミナーでの質疑応答などから垣間見える日本企業とロシア企業のビジネスメンタリティについて印象を述べてみたい。
【日本企業・ロシア企業の相手国や企業への不安】
■日本企業
・ロシア国家規格に適合する証明書取得など、貿易実務面での煩雑さ
・ロシア税関での通関日数が欧米諸国やアセアン諸国に比べ、長いこと
・概してマーケティングデータや企業情報などの質と量が乏しいこと
■ロシア企業
・ロシア企業は日本企業に信用されていないのでは、という不安感
・日本企業はYES/NOが分かりづらく、且つビジネス判断が遅いこと
・日本企業はビジネスに関係のない情報まで知りたがること(家賃、給料など)
日本企業の不安は理解できるが、「郷に入れば郷に従え」という諺のとおり、そういう市場であると早々に達観することがロシア市場参入の近道と思う。また、どの国にもこのような地域特性があり、上手に順応することがビジネス成功への鍵である。
一方、ロシア企業の不安内容は日本企業のそれとは異なり、やや具体的なビジネスプロセス上の視点に欠けるが、日本企業としては謙虚に受け止め、可能なところはぜひ改善して頂ければと思う。
【日本企業・ロシア企業の品質と価格に関する考え方】
■日本企業
・良いものは高くても売れる、という発想でのモノ作り
・日本製品は他のアジア諸国製品に比べ高品質である
・高くても良い製品は長持ちする、というセールストーク
■ロシア企業
・品質重視と価格重視の二極化
・中国製品、韓国製品とのコストパフォーマンス比較
・頻度の高い低価格製品買換えによる新品購入
特に重機、軽工業製品、繊維製品、一般消費財は中国製や韓国製と競合する場面が多い。
あるロシア企業から「日本製は高価格/高品質、韓国製は中価格/中品質、中国製は低価格/低品質」との評価を聞いたことがある。無論、各国の企業によって価格や品質は異なり、単純に評価することは出来ないが、多くのロシア企業がこのようなイメージを有していることは当たらずとも遠からず、と思われる。高品質を維持しながら中国製品や韓国製品価格との競争を強いられる日本企業は大変な努力が必要と思われるが、モノ作り大国「日本」の誇りをもってロシア市場にチャレンジして頂ければと思う。
何年か前にハバロフスクの街角で印象に残る製品広告ポスターを見たことがある。
「価格は一時的なものですぐに忘れるが、品質への評価は永遠に記憶に残る」という内容のキャッチフレーズだった。徐々にではあるが、ロシア企業も品質重視の姿勢になりつつあるのか、と感慨深かったことを覚えている。
日本とロシアでは文化や生活習慣などの相違から、ビジネス交渉での考え方のギャップが生じる場合がある。しかし、お互いがそれぞれのメンタリティをよく理解しておけば円滑で効果的な交渉も可能であろう。
皆様のロシアビジネス成功を心から祈念しております。
LAPITAアドバイザー
ロシアビジネスコンサルタント
鐵尾 安夫
日魯漁業にて旧ソ連からの農水産物輸入を行うとともに鮭鱒母船操業通訳官を担当。
ソニーでは旧ソ連向け放送機器システム輸出および同機器デファクト化の推進を行うとともにシェワルナゼ外務大臣(当時)のソニー訪問をアレンジするなど、ソニーと旧ソ連のブリッジ役として活躍。
2007年よりロシアビジネスコンサルタント業務を行うテツオ・トレーディング株式会社を設立し、中堅・中小企業のロシアビジネス支援をはじめ、2008年よりロシアNIS貿易会のビジネスマッチング事業コンサルタント、2009年より外務省主催の「在ロシア日本センター訪日研修事業プログラム」の一環としてロシア経営者幹部を対象としたビジネスセミナー講師を担当。