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【ロシアコラム】サラファンに見る「カワイイ」文化(鐵尾 安夫)

「赤いサラファン」というロシア民謡をご存知だろうか? 1830年代に作られた曲で、娘の婚礼用サラファンを縫う母親と結婚に乗り気でない娘の会話が歌詞となっている。


サラファンとはロシアの伝統的民族衣装で、今で言うブラウスの上に着るジャンパースカートのようなものである。サラファンは作業着や普段着として着用するカジュアルなものから婚礼などフォーマルなものまで幅広いラインアップがあったそうだ。また、貴族や大地主が着用するサラファンにはシルク、サテンなどの高級素材が使用され、毛皮の縁取りや金のボタン、金・銀の刺繍など豪奢の装飾が施されていた。一方、農民や一般庶民は地味なダークカラーの亜麻やウールなどの手織り布を素材としていた。しかし、貧しい中にもおしゃれ精神を発揮し、質素な組み紐、リボン、刺繍などの装飾を施していたそうだ。(写真はサラファンを着た女性)

そして現在に至るまで、サラファンのデザイン、素材、装飾へのこだわりは続き、その時代に合ったファッションが誕生している。

近年、ロシアで日本の「カワイイ」文化が浸透しつつあるが、これはサラファンで培われたロシア女性の「おしゃれ精神」がバックボーンとなっているものと思われる。

日本の「カワイイ」文化が登場したのはサンリオ社からハローキティが発売された1970年代のこと。特に女子学生を中心に爆発的人気となり、彼女らの普段の会話にも「カワイイ」が頻繁に出てくるようになった。それから40年が過ぎた現在、「カワイイ」は"Kawaii"(英語)や"Каваи"(露語)のようにグローバル語となりつつある。

ロシアの「カワイイ」文化は日本のアニメや漫画、そして登場キャラクターを真似たコスプレが代表的だが、最近では自分自身をかわいく演出したい、というニーズが増えつつある。

例えば、おしゃれでかわいいバッグや人目を引くアクセサリー、そして気の利いたプレゼントグッズなどに人気が高まっている。

モスクワにユニークなロシア企業がある。社名は"Kawaii Factory"で、同社の公式サイトによると、2006年に設立された「カワイイ」をキーコンセプトにした小物類や雑貨類などを製造販売する企業で、2011年からフランチャイズ(FC)事業に乗り出し、現在、全ロシアに直営店2社、FC店65社を有する。主な取扱い品目は以下のとおり:


- ギフト用品、アクセサリー類、装飾品、時計、傘、バッグ、財布、文房具用品、はがきカード、家庭用・自動車用・旅行用小物類など。


上記製品の約半数はロシア国産品で、残り半数は欧州やアジア諸国からの輸入品である。

また、同社は単なる製品輸入だけでなく、デザイン面でのビジネス協力にも積極的で、ロシア国内や海外のデザインスタジオなどとの付き合いも多い。(写真はKawaii Factory社製品の一部)

ところで、少し気になることがある。同社製品に日本製品らしきものが見当たらない。主な輸入先は中国、韓国、タイ、そして英国などの欧州諸国のようだ。ちなみに、同社は中国の上海に事務所を置いている。

折角、日本の「カワイイ」を社名にしているにもかかわらず、日本製品が殆どない現状は看過できない問題と思う。製品の輸出或はデザイン協力に関心のある方々は一度同社にアプローチされ、ビジネスの可能性を探って頂ければと思う。同社の公式サイトはwww.kawaiifactory.ru で、英語バージョンも掲載されている。

冒頭にご紹介したサラファンには興味深い言い回しがある。

"Сарафанное радио" (サラファンナエ ラジオ : サラファンのラジオの意)

これは昔サラファンを着た近所の女性たちが井戸端などで家事をこなす際、自分や他人が購入した品物について論評し合う場面を表現したもの。彼女たちの品評結果は口コミでどんどんと周囲へ広がり、下手な宣伝広告よりも影響力があったらしい。

日本の「カワイイ」製品がサラファンのラジオに乗って、その評判が全ロシアに届くことを願ってやまない。



LAPITAアドバイザー

ロシアビジネスコンサルタント
鐵尾 安夫 

日魯漁業にて旧ソ連からの農水産物輸入を行うとともに鮭鱒母船操業通訳官を担当。
ソニーでは旧ソ連向け放送機器システム輸出および同機器デファクト化の推進を行うとともにシェワルナゼ外務大臣(当時)のソニー訪問をアレンジするなど、ソニーと旧ソ連のブリッジ役として活躍。
2007年よりロシアビジネスコンサルタント業務を行うテツオ・トレーディング株式会社を設立し、中堅・中小企業のロシアビジネス支援をはじめ、2008年よりロシアNIS貿易会のビジネスマッチング事業コンサルタント、2009年より外務省主催の「在ロシア日本センター訪日研修事業プログラム」の一環としてロシア経営者幹部を対象としたビジネスセミナー講師を担当。

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