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【マレーシアコラム】ハラル化粧品のビジネスチャンス その3

【ハラル市場へ その1】

このコラムはハラル化粧品について連載している。
第3回目となる今回は、日本の企業が海外でハラル化粧品を販売する場合に、必要なことを考えてみたい。

ハラル化粧品の需要がある国といっても様々あるが、まずはマレーシアとしてみる。
マレーシアは、政府機関であるマレーシアイスラム開発局(Jabatan Kemajuan Islam Malaysia)、通称(JAKIM(ジャキム))がハラル認証を担当しており、その認証は世界で最も厳格で信頼できるとされている。このマレーシアで販売するには、何が必要なのかを、化粧品のハラル認証、そしてマレーシア(その他のイスラム圏も視野にいれて)でのマーケティングを通して考えてみよう。

(1) まず大事なのは、どのような商品を販売するのか、だろう。

美白か、老化予防か。それともマレーシアにはニキビ肌に悩む女性が多いので、アクネ商品か。意外かもしれないが、ムスリムの女性も、色白へのあこがれは強い。美白をアピールできる美容液、美白&UV対策が訴求できる商品がいいだろう。暑さの厳しい地域なので、汗をかいた肌をきめ細かく柔らかい泡ですっきりさせる洗顔料なら、さわやかなイメージがある。かといって、さわやかなだけでは、肌を若々しく保つことはできない。軽い使い心地で、十分な水分補給と保湿ができる化粧水も十分に訴求力がある。

(2) どのような商品を開発するのかが企画できたら、次は成分等を検討しよう。

昨今は、動物愛護の精神から、ナチュラルとか、オーガニックではない一般の化粧品でも、動物性の原料を植物性のものに代替していく傾向にある。牛や豚から抽出していた原料が魚由来のものに代替されることもある。とすると、成分的にはハラルといえるもの、もしくはハラルの成分に代替可能なものは多い。
JAKIMのハラル認証の審査は厳格だ。成分から製造方法にいたるまで、証明する作業も煩雑になる。せっかく懸命に開発した処方を、後々変更するのは大変だ。開発段階からJAKIMと相談しながら、慎重に進めたい。

(3) マレーシアのハラル認証か、日本のハラル認証か。

ところで、マレーシアで正式にハラルであるという認証の取得には、二つの選択がある。
一つ目は、JAKIMから直接ハラル認証を取得する方法、二つ目は、JAKIMが承認したハラル認証機関から認証を取得する方法だ。JAKIM のウェブサイトによると、世界34カ国75機関(日本では2つの機関)が、JAKIMからハラル認証を承認されている。JAKIMと同等のハラル認証として、マレーシアでは認められている。
つまり、日本の企業が、日本の工場で製造し、日本で日本語でハラル認証を取得することができる。この二つの選択肢を視野に、あらゆる方向から、どこの機関からハラル認証を取得するのが、自社にとって有効かを考える必要がある。

(4) どうやって売るか。

さて、市場調査も終わり、商品を開発し、無事ハラル認証を取得できた。ハラル化粧品の完成だ。
しかし、ハラル認証が取得できたからといって、すぐに、売れるものではない。日本からマレーシアへ、さらに遠いイスラム国へ売り込まなければならない。
販路開拓のために、イスラム国の見本市へ出展するのも、一つの方法である。ハラル商品の商談会も頻繁に開催されている。展示会•商談会などの情報は、ジェトロに相談してみることもいい。

(5) 日本人がハラル商品を売ることの落とし穴

ただ、非イスラムの日本人が、イスラム圏へハラル商品を売り込むことは、通常の売り込みより、より困難だと感じる。
なにが、困難かというと、日本人はハラルを、単なるビジネスとしてとらえていることだ。当然16億人以上といわれるハラル市場にビジネスチャンスを見出さないわけにはいかない。現に小生も、このコラムの題目を"ハラル化粧品のビジネスチャンス"としている。しかしながら、ムスリムは、生活も人生も、すべてコーランに従っていることを忘れてはならない。ハラルは、コーランに規定される。

このことを忘れてしまった典型的な私の失敗談を今回のコラムの最後に。

マレーシアのハラル商談会に参加した時のこと。あるハラル化粧品会社の参加者と商談した。
ビジネスとしての効率性を考えた私は、「ハラルではない化粧品は製造しないのか」と質問した。どうせ、提携するならば、ハラル化粧品だけではなく、ノンハラルの化粧品も製造してもらったほうが、効率がいい。これをどのように考えているかを知りたかったのだ。
回答は明確であった。「私の会社には、ハラルしかないし、私の生活にもハラルしかない」と。
軽々しく、「ハラルではない化粧品」などといってしまったことが、恥ずかしく思えた。ムスリムにとって、ハラルは科学でも技術でもない。信仰の基盤であり、毎日の生活のよりどころなのだ。

なぜ豚を食べてはいけないのか。コーランにはその理由は書かれていない。"食べてはいけない"と書かれているから、食べないのだ。

では、ハラル化粧品の市場に参入したいと思っている我々は、どうだろう。
豚もたべれば、酒も飲んでいる。生活の中に、ノンハラルがあふれているのに、「我社はハラルを理解し、実践している」、といえるのか。ハラル化粧品の製造者、販売者になれるのだろうか。

次回は、この疑問、イスラムと非イスラムのギャップを如何に解決し、ハラル市場へ参入するか、より具体的に考えてみたい。

※第二回目のコラムはこちらから:【マレーシアコラム】ハラル化粧品のビジネスチャンス その2


コンサルタント 安藤仁志

1960年、新潟市に生まれ、うお座。O型。大学卒業後、日本メナード化粧品に入社。主に海外事業に携わる。タイ、中国、マレーシアに駐在した経験は、現地法人の立ち上げから経営、現地法規制へのコンプライアンス業務、海外代理店の開拓・営業、海外マーケティングまで幅広い。退社後は、海外への進出を希望する企業へのコンサル業を営む。

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