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【ロシアコラム】グルジアワインとの再会(鐵尾 安夫)

ロシアで酒と言えばウオッカをイメージする読者が多いと思うが、他にもお奨めしたい美味な酒がある。コニャックとワインである。今回はロシアで楽しめる酒を紹介しながら、グルジア産ワインにスポットを当ててみようと思う。

トップバッターはやはりウオッカである。ソ連時代は透明のボトルに赤いラベルを貼った「スタリチナヤ」が代表的だったが、現在は豊富なラインアップが揃っており各自の味覚と予算に合わせて選ぶことが可能だ。私のお気に入りは何といっても「ベルーガ」という銘柄。特に「ベルーガ・ゴールドライン」が最高である。ベルーガはオオチョウザメのロシア語で、チョウザメの中でも希少価値のある魚種。つまり究極のプレミアムウオッカであることをアピールしているわけだ。ここでウオッカを美味しく飲むコツをアドバイスさせて頂く。ウオッカは口中や舌で味わうことなく喉奥に一気に流し込むことだ。そしてすぐさま氷水を飲むこと、他の酒とチャンポンしないこと。そうすれば二日酔いの心配はないと思う。もともとウオッカのアルコール度数はウイスキーよりも低く、40度である。意外と思われるかも知れないが、この40度が最もウオッカに合ったアルコール度数であることがメンデレーエフというロシアの化学者によって証明されているとの説がある。

次にコニャックをご紹介しよう。私のお奨めはアルメニア産の「アララット」である。

味はレミーやクルボアジェなどに引けをとらないと思うが、ソ連時代は何の変哲もない単なる溶液を入れるガラス容器のようなボトルで販売されており、エレガントさやゴージャスさを求める愛飲家には物足りなかったように思う。現在はボトルデザインも多少洗練されておりコニャックらしい商品になってきたようだ。お奨めはラベルに☆が5つ並んでいる「アララット・ファイブスター」。

アララットは山の名前で、旧約聖書に登場するノアの箱舟が大洪水の後に辿り着いたとされる山だ。現在はトルコに属するが、オスマン帝国末期頃までアルメニア民族が居住しており、アララット山はアルメニア民族のシンボルとも言われている。

最後はワインの出番だ。ユニークな製造法が評価され、昨年ユネスコ無形文化遺産に和食とともに登録されたグルジア産ワインについてお話したい。 

私が初めてグルジアワインに出会ったのは1975年頃のモスクワで、特にドライ系白ワインの「ツィナンダリ」が好みだった。グルジアワインは巨大な壺にぶどうを入れ、半年ほど地中に埋めて熟成させるという製造方法である。

これらのワインは歴史を彩る有名人にも愛されていたようだ。例えばグルジアワインは「クレオパトラの涙」と形容されることがある。人前では権力を誇示したクレオパトラが時には一人寂しく涙しながらグルジアワインを嗜んだことが由来とのこと。また、あの有名なヤルタ会談の当事者であったグルジア生まれのスターリンや英国のチャーチルがセミ・スウィート系赤ワインの「キンズマラウリ」を愛飲していた、などの逸話が今も語り継がれている。

ところが2006年半ばからロシアでグルジアワインを見ることがなくなった。グルジアとロシアの間に紛争が生じ、ロシアが経済制裁のためにワインの輸入を禁止したからだ。

それゆえ、ロシアのレストランでは「ツィナンダリ」を味わうことができず、私はいつもコストパフォーマンスに優れたチリワインにその代役をお願いしていた。

禁輸から7年が経過した昨年初めから、近々ロシアがグルジアワインの輸入を再開する、という噂を何度か耳にしたが、結局は噂の域をでることはなかった。しかし、昨年11月モスクワ出張時にグルジアワインが市場に出回っているという話を聞き、早速ホテル近くの食料品店を訪れワイン売り場を念入りにチェックしたところ、懐かしのワイン「ツィナンダリ」と赤ワインの「キンズマラウリ」が誇らしげに並んでいるではないか! 待ちに待ったグルジアを代表するワインに再会できた瞬間だった。ソ連時代よりは値段も高くなっているが、それでも両ワインとも3,000円前後で購入できた。

一方、グルジアのワインメーカーにとってロシアによるワイン禁輸は悪いことばかりではなかったようだ。当時はグルジアワイン輸出先の9割がロシアだったゆえ、ワインメーカーや農家は大きなダメージを被ったらしい。その結果、ロシア以外の市場を発掘せねばならなくなり、生き残りをかけて欧州市場の開拓に傾注することになった。ワイン通の多い欧州顧客を満足させるためにはワイン品質の向上は言うまでもなく、ボトルデザインにまで気を配ることになったのだろう。そのような努力が結実し、現在は欧州45か国に輸出を展開しているとのことだ。もともと美味なワインなので、洗練されたデザインのボトルならばブランド力のある欧州ワインにも引けをとらないと思っていた。

このようにして一皮むけたグルジアワインがロシアに戻ってきた。

読者の皆様もロシアへ行く機会があれば、ぜひ、これらの酒をロシア料理や、アルメニア料理、グルジア料理とともに楽しんで頂きたい。

ワインに関連し、ロシアにおける日本酒の動向にも触れておきたい。最近は官民を挙げて世界に向けた日本酒輸出促進活動が行われており、ロシアへの売込みも活発化している。LAPITAが実施している「日本酒テストマーケティング事業」はその代表的なもので、参加蔵元各位やモスクワの有名日本食レストランの協力を得て推進されている事業である。

関係各位の努力の結果、第一回目の船積みが決定し、今年からモスクワの日本食レストランに地酒が登場することになった。もう一つの朗報は、昨年10月にインドネシアのバリでの日露首脳会談において、安倍首相がプーチン大統領に61歳の誕生日プレゼントとして地元山口県の地酒と萩焼のぐいのみを贈呈し、大変喜ばれたというエピソードである。

このような地道な活動やトップセールスがロシア市場の扉を開けることにつながる。

そして近い将来、モスクワでもウオッカ、コニャック、ワインと同じように日本酒を銘柄で注文できるようになっていることを期待している。
微力ではあるが、何かお役に立てることがあれば幸いである。



MrTetsuo.jpgのサムネイル画像のサムネイル画像LAPITAアドバイザー

ロシアビジネスコンサルタント
鐵尾 安夫 

日魯漁業にて旧ソ連からの農水産物輸入を行うとともに鮭鱒母船操業通訳官を担当。
ソニーでは旧ソ連向け放送機器システム輸出および同機器デファクト化の推進を行うとともにシェワルナゼ外務大臣(当時)のソニー訪問をアレンジするなど、ソニーと旧ソ連のブリッジ役として活躍。
2007年よりロシアビジネスコンサルタント業務を行うテツオ・トレーディング株式会社を設立し、中堅・中小企業のロシアビジネス支援をはじめ、2008年よりロシアNIS貿易会のビジネスマッチング事業コンサルタント、2009年より外務省主催の「在ロシア日本センター訪日研修事業プログラム」の一環としてロシア経営者幹部を対象としたビジネスセミナー講師を担当。

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