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【フィリピンコラム】フィリピン女性の社会進出について

筆者は、日本の大手食品会社で、約35年海外の仕事に従事し、南米諸国(ブラジル、ペルー)通算17年の駐在、そしてアジアにおいてはシンガポール、フィリピンの駐在経験を通じた生活事情、国民性、特にラテン特性を充分理解しているので、フィリピンの女性がいかに社会進出、貢献度が高いかを自分なりに解析し提言する事にする。

フィリピン共和国は昨年人口1億人に達し、男女の比率はほぼ折半した数字であるので特に、女性が多いと言う事でない。一方、フィリピン国は、歴史的に約350年以上に亘るスペインの植民地であった事、戦後は米国の影響も受けおり、スペイン・米国文化・思想の混在した社会・文化・習慣が残存しているので、この点、他のアセアン諸国の特色と異なる。

また、フィリピン国は、アセアンの中でも、民主主義を取り入れた最初の国であり、米国がもたらした男女均等労働権、賃金同一、参政権など忘れてはならない。

1.世界の中でのフィリピン女性の社会進出の位置図け

毎年世界経済フォーラム(WEF)が公表しているが、フィリピン女性の社会進出は、2013年度で、世界135カ国中、第8位である。2008、2007、2006年は第6位であるので、上位10位に入る優等生である。(日本は、第98位)

これは、フィリピン女性の発言の高さが評価され、歴史的背景においても女性の社会参加を阻止された事実はないのである。故コラソン・アキノ大統領、元アロヨ大統領など二人の女性大統領が誕生しており、スペイン系のDNAを持つ女性は、美人でスタイル良く、教養もあり世界ミスコンテストなどでも絶えず上位に入賞している。

世界的位置付けを理解頂いたので、以下「どうして? WHY?」を解析して行きたい。

2. 初等教育のレベルと米国の影響

小学校4年、中学4年、高校2年の教育制度であるが、フィリピンは、2013年より義務教育期間を12年に変更した。就学率は、89パーセントと日本(99.9パーセント)を下回るが、英語教育が徹底し、バイリンガルの国民である。

最近のコールセンターが注目を浴びていると同時に、英会話スクールなど韓国、中国等からの留学生が多く就学している。

白人の英語(オーストラリア、ニュージーランド、カナダ等)教師に代わり、フィリピン女性が会話の先生になっている。時代の変遷か? 注目を浴びるフィリピンである。識字率は、90パーセントを越えるが、これは国民平均であり、若者の識字率は100パーセントに近いと理解する。

3. ラテン気質(スペインの影響)とカトリックの教義 (流儀)

1)大家族主義

住宅事情も影響すると思うが、フィリピンの平均家族は、5.3人であり、日本の核家族化が進む中、この大家族主義が、女性の社会進出を支援していることも大きく影響する。同居していない叔父、叔母その子弟も皆、家族と捉える考えがあるが、カトリックの教義である「堕胎の禁止」から、平均出生率は、2.1パーセントと高い。

親から子供、子供から親への信愛・尊敬、そして兄弟同士の愛も日本人以上に深い。女性が、仕事に出ている間は、おばあちゃん或いは兄弟が、乳幼児、子供の世話をするので、親も安心して仕事に行ける。 日本の保育園、幼稚園の問題もない。

2) フィリピン人の人生観

フィリピン人の人生観は以下の通り

   家族を大切にする    100パーセント
   宗教           98パーセント(カトリック教は、84パーセント)
   仕事           98パーセント
   友人           89パーセント
   レジャー         56パーセント
   政治           48パーセント

3) 男性はマチョ、見栄っ張りな気質

フィリピンより南に位置するベトナム、タイ、マレーシアなどでは、男性も勤労しているが、フィリピンの様なマチョ気質でない。労働者レベルの男性は、仕事をしないで、遊ぶこと(飲酒、ギャンブル、女性に目がない)が大好き。男性が働かなくても女性が働き、食べさせてもらう事に甘んじている例が多い。フィリピンでは、失業中であっても、人から仕事は?と質問を受けた時、「stand by」と返答する。簡単に言えば、「仕事は決まっているが、近々仕事につく」と言う言い方であり、昼間からプラプラしている。失業率の高いフィリピンでは、女性が世帯運営の為に経済的に働き、家族を支える事に直結している。

この背景は、女性が社会進出している大きな理由であろう。

男性の見栄っ張りな一例をご紹介しよう。フィリピンに駐在していた時、会社は労使協定の条件で、毎月従業員に50kg袋の米を配給する。フィリピン人は、「何がなくても米」が大切である。この重い米俵を男性は、会社からジープニーに乗せて、家の近くまで運ぶ。そこから担いで、近所の人に、いかにも手柄を取って来たと言うしぐさで、米を担ぎながら家に運ぶのである。近所の人は、50kgの大袋の米に驚嘆し、男性を羨ましく見ている。

4) 女性の易しさ、気立ての良さと教養の高さ

女性が社会で活躍するのが、一般的に容認されている中、フィリピンの女性のHospitalityが高いことは、世界で認められている。日本にあるフィリピンパブでも、その優しさ、持て成しに没頭し、フィリピン女性が本国に帰国してから彼女をフィリピンまで追っかける日本人男性が多々いる(追っかけ組)。彼女との関係が深まるや、自分の家族を捨ててフィリピンに逃避行する男性も多い(はまり組)。

フィリピン女性が、会社、工場、サービス業分野で活躍しているのは、気質に加え、文句を余り言わない。上司の命令に従う(スペイン植民地時代のフィリピン人の生き残り精神)人が多く、使用人としては、使いやすいと言う利点があろう。

フィリピン女性の管理職比率も世界的に高い。 日本は未だ1.4パーセントである。

5) 3Kの違い

フィリピン人の仕事に対する考えは、日本で昔言われた3K(汚い、キツイ、臭い)の仕事でも生きる為に働く。職種を問わず、働かなくては生活出来ないからである。

フィリピン女性は、政治家から経済界、弁護士、一般会社などの職場で活躍すると同時に、海外での就労も多い。フィリピン特有のOFWであり、今や1,000万人のフィリピン人が、米国、欧州、中近東、北欧で働き、その稼ぎを本国に送金し家族の生活費の支援をしている。フィリピンのGDPの10パーセント近くが、正式な形で送金されているので、一時帰国で里帰りした人たちの外貨を加算すると10数パーセントに達するだろう。この支援金が今の国内消費の活性化につながっている。

6) 対面販売のサリサリストア

全国に60万軒あると言われている超小規模の小売店である。
民家の路面に面した空間(1坪程度)に、生活必需品(米、乾物類、1本売りのタバコ、少量の野菜など)を並べて営業している自営商店である。店番はおばあちゃん、おじいちゃん、子供たちが行っているが、貧困層の人たちがその日に必要(食べる)な品物を買いに来ている。

マカティ、マニラでの量販店の売上(約3割)は高いが、地方はまだまだ流通が発達しているとは言え、このサリサリストア、公設市場、一般小売店の売り上げの比率が高いことは確かである。

従って、小金のある店主は、自宅を改装し、手軽にサリサリストアを開業し、日銭稼ぎで商売を行っている。 家庭の主婦も勿論であるが、このサリサリストアでの働きも女性の社会進出の一つである。 対面販売であるので、子供の頃から、人とのコミュニケーションの取り方、持て成し、礼儀を自然に覚え、また近所の人たちとの小さな情報交換(井戸端会議)の場所でもある。

4. フィリピンの労働法での保護

現法は、マルコス大統領時代に制定された労働法(1974年5月)が基本である。
米国が持ち込んだ労働者の権利、女性均等賃金、組合交渉(CBA)など、良い意味で労働者保護である。
社会保障制度(SSS)への加入、健康保険(Philhealth)、PAG-IBIG(住宅貸付公庫)の制度など、正社員、契約、臨時雇いの差別なく、月間1,000ペソ(約2,700円)の所得を得る者は、加入が出来るので、日本より進んでいる。また日本で契約社員の問題が社会問題となっているが、通算一年以上同業種の仕事をした者は、正社員にしなくてはならない。

また、2011年7月に共和国法第10151号で、女性の夜間労働(夜10時から翌朝6時)まで解禁となり、女性は24時間いずれの時間帯でも働けることになった(コールセンター労務対象に良い)。また同法律では、産前・産後の代替場所の提供、無料の健康診断、応急設備、安全な労働環境の提供、仮眠所、休憩場所の設置など、手厚く女性労働者の待遇改善が図れている。


sakai.pngLAPITA専任アドバイザー
酒井 芳彦
(元 味の素株式会社中南米本部長・理事)

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