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【アジア中古車コラム】アジア中古車流通の課題と展望

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2012 年 4 月、京都大学東アジア経済研究センター内で、アジア中古車流通研究会が組織された。この研究会では、特にアジアでの中古車流通について、自動車業界を横断した活発な議論がされている。この研究会を率いる東アジア経済研究センターの塩地洋教授に、アジア中古車流通の課題と魅力について話を聞いた。


◆欧米に比べアジアの中古車流通は遅れをとっている

塩地教授は、「欧米と比較するとアジアの中古車流通は遅れている面がある」と指摘する。

遅れているのは、量的に台数が小さいためだという。一般的にその国の中古車流通の発展度合いを図る指標として新中比率が用いられる。新中比率とはその国の新車販売台数に対する中古車台数の比率だ。その観点から言えば、英国などのヨーロッパは 3.0、アメリカでは 2.0 と中古車流通が新車流通の 2 倍、3 倍となっている。一方、アジアでは一番高いと思われるタイでも 1.0 ほど、インドネシアなどでは 1.0 より低い比率であり、新車流通より中古車流通が少ないといえるだろう。

確かに、タイやインドネシアの中古車登録台数を見ると、新車流通以上の登録台数が記載されている場合がある。しかし、アジアでは、実際の中古車小売り台数を見るときには名義変更回数を考慮する必要がある。中古車登録台数は最終消費者であるエンドユーザーの販売台数を表すものではない。一般的に中古車は最終消費者であるエンドユーザーに届くまでの流通過程において、重複して名義変更されるため、大きな数値が記載されているのだ。また、そもそもアジア諸国においては中古車流通における統計的データが正確ではないといったことも考慮する必要があるだろう。筆者としても、量的に台数が少ない状況であれば、中古車価格が割高で推移し続けているアジア中古車流通の特徴に合点がいく。欧米に比べ需要と供給の関係では供給過多であり、価格が下がりづらい状況であると推測できるからだ。

一方、長期的には見れば価格が下がる要因も出てきている。タイなどでは、自動車を初めて購入するユーザーに向けたタイ政府の税制優遇策が 2012 年に施行されたため、新車市場が急拡大した。2017 年あたりに、乗り換えによってこれらが中古車として市場に大量に出てきた場合、需給のバランスが変わり、価格も下がる可能性があるといえるだろう。


◆アジア中古車流通において重要なのは健全化の促進

アジアでは、まだまだ安心してユーザーが中古車を購入することができない状況だ。販売されている中古車には価格が表示されていないし、走行距離や過去の自動車修復履歴なども明示されていない。

このような状況から、アジア中古車流通に残されている課題は「中古車流通の健全化」であると塩地教授は指摘する。それは、売り手と買い手の間で中古車情報に関する情報の非対称性、格差をなくして、公正な取引が行えるようにするということだ。

教授が指摘している中古車流通の健全化は、簡単に解決はできない。しかし、中古車流通が拡大していく調整局面では必ず通らなければいけない壁だと筆者も考えている。第三者機関による公正ルールの必要性は今後ますます増していくだろう。情報開示だけではなく、明白な店舗基準、自動車典型基準、適格な納税などによって、中古車流通全体の信頼向上が求められることになる。


◆中古車流通の健全化が新車販売拡大につながる

さらに教授は「アジアの新車ディーラーで中古車を販売する動きを広げていく」ことを重視している。

アジアの国々では自動車メーカーが中古車販売に力を入れていない。日本でも 1970 年代は同じように、中古車ビジネス、修理・整備などのアフタービジネスに関心がない時代があった。新車ディーラーの収益安定、発展にとって、新車販売だけではなく中古車を下取り・小売りするということが重要だ。長期的に見れば自動車メーカーにとっても、新車ディーラーが経営体として強くなることで新車販売が拡大する。つまり中古車流通が健全化されるということは、新車販売の拡大につながると教授は予測する。

さらに、筆者は「流通を健全化するためには、日本の過去の経験を伝えていくことも重要である」と付け加えておきたい。アジア新車ディーラーでの中古車下取りは極端に少ない。ブローカーが活躍できる市場だからだ。

一方、日本では 80 年代以降にオークション流通や中古車情報誌などの発行が拡大した。それにより中古車の市場価値が分かりやすくなっていき、ブローカーの出番が少しずつ減っていった。当然、文化や慣習が異なるため日本の過去の経験すべてをアジア市場に横展開することはできないが、日本がたどってきた中古流通市場の変化や具体的な政策、制度などは、参考にする価値がある。

アジアの中古車市場には開拓の余地が広く残されており、巨大で高いポテンシャルを持つという魅力がある。アジア中古車流通の健全化は、日本の自動車メーカーのさらなる発展につながるだろう。


※本記事は、レスポンスでのコラム「川崎大輔の流通大陸」の記事の一部を編集、再構築しております。


 kawasaki.jpg川崎 大輔 (かわさき だいすけ)

香港の会社に就職後、アジアに8年駐在し、日本に帰国。ベンチャー企業の経営企画を経て、中古車企業のガリバーインターナショナルで海外事業部の立ち上げ。アメリカ事業、インド事業、タイ事業の立ち上げと海外事業を担当。2015年半ばよりAsean Plus Consulting LLCにて日系企業のアジア進出サポートを開始。

経営学修士、MBA、京都大学大学院経済研究科東アジア研究センター外部研究員

 






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